第101話の1『擬態』
{前回までのあらすじ}
俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。レジスタの街を襲った光の矢、それが放たれた場所を博士に解析してもらい、俺たちは原因を究明すべく向かっているところである。途中で魔王軍の船と激突したが、それはなんとかなった。
俺たちの船と魔王軍の船、その2つが合体したままの状態で飛行している状態だったのだが、何やら大きなものと衝突して墜落を始めた。その何かとぶつかった拍子に飛行船の前側が壊れ、落っこちないように俺たちはドアノブなどへとつかまっている。飛行船の破損個所より、巨大な何かが少し見えた。あれは……。
「な……巨人か?」
魔王軍の飛行船にあいた亀裂からのぞいた限りなので、それの全体像は俺の目には映らない。でも、大きな手らしきものがあるのは確認できた。つかまっているだけでやっとの俺たちだったが、船は途中で墜落する勢いを弱め、墜落にブレーキをかけたようにして下への重力が弱まる。
「とりあえず、俺たちの船に戻りましょう!」
来た道を思い出しつつ、俺はグロウがいる操縦席へと向かう。斜めになっていた足場は水平に戻り、スムーズに移動することができた。俺たちが乗ってきたロボの胸元辺りにある部屋からは煌びやかな光が漏れでており、操縦席のハンドルへありったけの魔力をそそいでいるグロウの姿が眩しくも見えてくる。
「グロウ!大丈夫か!」
「よく見えねぇが、前で何があったんだ!?」
飛行しているロボの操縦席からうかがえるのは真下に広がる森と、ロボの腕がある右と左への展望だ。目の前は魔王軍の飛行船が邪魔で見えない。漠然とだが、俺は魔導船が衝突したものについてをグロウに伝える。
「前には、光る巨人みたいなのがいた」
「なんだそりゃ?」
「上!来るわよ!」
ララさんが上方を指さし、何か来ると注意をうながす。かといって、俺たちには上は見えていないから、どうしたらいいのか解らない。ただ、ごうごうという耳障りな音が上から近づき、俺たちは攻撃に備えて低く身構えた。
「……」
……。
「……?」
燃えるような音は聞こえている。だが、攻撃が落ちてくるというわけでもない。これ……どういう状態なんだ?俺はロボの腕の中へと移動し、そこから上空へと視線を向けた。
「……?」
俺たちの目の前には、光る巨人が立っている。その体は山とも見間違わないほど更に大きく、前に戦った四天王のジ・ブーンよりも何倍も大きい。全身から黄色い光があふれていて、生き物というよりはエネルギー体といった風貌だ。頭は雲の上にあって見えないが、逆に膝から下は存在せず、宙に浮いているように見える。
巨人は指の多い両手を俺たちの魔導船へと向けていて、だが何かしてくるわけでもなく制止している。味方……ではないような気もするが、キャラデザイン的に見たら多少の不気味さがあるから、敵なんじゃないかと俺は判断する。
「……グロウ。横に移動できる?」
「ああ」
グロウがハンドルに魔力を送り込む。グオンと音を立てて、魔導船は右へと船体を傾けた。船の動きを追って、巨人も手のひらを動かしている。巨人の腰の部分にはひび割れらしきものがあり、そこに俺たちは激突したのではないかと思われた。
「グロウ。悪いんだけど……さっきと逆側に移動できる?」
「ああ……」
俺たちの行く手をさえぎる形で、巨人の手が邪魔をしてくる。今度は左へと船を動かしてみる。また同じ動きで、巨人は船の近くへと手をそえた。なにをしているんだろう。それを考えていると、ゼロさんが俺の傍にやってきて、ふとして俺の中にある疑問へとヒントを与えた。
「……迷っているんじゃないか?」
「……何をですか?」
「敵か、味方か」
「……あ」
それを聞き、現在の状況を整理してみた。俺たちの船は魔王軍の船に突き刺さっていて、上から見ればまるっきり魔王軍の飛行船だ。船を動かしているのも、魔物であるグロウの魔力。ただ、乗っているのは勇者。これは……確かに、少し複雑である。
「……」
飛行船からロボの手足が生えてすらいる。改めて見ると、ヤバいな……この船。
第101話の2へ続く






