第100話の4『どちらさまですか?』
「ララさん。毒消しです」
「精霊は毒になんないし……」
さすがに3つ目の毒消しは必要ないと見て、ブシャマシャさんの宝箱に戻しておいた。ブシャマシャさんの部屋から通路へと出て、再びゼロさんのをいる場所を探す。したら、近くのトビラが静かに開き、中からゼロさんが現れた。
「テルヤ。無事だったか」
「あ……はい。まあ、俺は戦ってないですけど」
「よく見えなかったが、飛行船で何があった?」
ゼロさんが乗っていたロボの頭部からでは、飛行船の外で何があったのは見えなかったらしい。飛行船の上に出られそうな階段があるので、そこを登って飛行船の甲板へと出つつ、だらんと落ち込んでいる仙人を交えて事の一部始終を告げる。
「先程、仙人が敵の大将と戦ってくれたんですけど、相手は昔馴染みで恋敵だったようで……」
「ああ。あの、前にも会ったやつか。ブシャマシャとかいう男か」
「わしに未練はない……気にせんといて」
「……」
未練はないようだが涙は流れている訳で……しばし、そっとしておいてあげることにした。グロウがものすごいスピードでロボを飛ばしており、飛行船の外は風が強い。一旦、飛行船の中に入ったところで、俺は進行方向をゼロさんに尋ねる。
「どっちに飛んだら、光の矢を撃ってきた敵のところに着きますか?」
「調べてみる」
ゼロさんの腕についている魔道具がモーター音を発し、内側からライトの点滅がうかがえる。数秒後、細い光の線が魔道具から放たれ、飛行船の壁へとぶつかった。
「あちらだ」
「グロウが動かしてるので……行き先も動いてますね」
魔道具から放たれた光はロボの向きに応じて振り回されており、あとで改めて確認した方が間違いないと考えた。そんなことをしている内、どこかの部屋で電話の呼び出し音らしきものが鳴り始める。どこで鳴ってるんだろう。俺が周囲から音の出どころを探していると、先に発信源を察知したララさんが大きな扉に手をかけた。
「ここじゃない?」
「そこは……操舵室ですか?」
ドアには魔導操舵室と書いてある。部屋は少しだけ開いていて、中には誰もいなさそうな雰囲気である。そっとお邪魔してみると、部屋の奥にあるガラスが割れ落ちており、その向こうにはロボの一部が見えていた。ずらっと並んでいるスイッチやレバーなどを注意深く見つめる。そのボタンの1つが点滅しており、そこから音が出ていることも解った。
「……押してみます?」
「危険ではないだろうか」
「多分、大丈夫だと思うわよ」
ゼロさんには止められたが、ララさんから見ると危険なものではないらしい。その確証を求めて、俺たちはララさんに視線を向けた。
「魔力も大して感じないし、発熱や発火しそうなものの気配もないし」
そうか。ララさんは炎の精霊だから、爆発するものや発火するものに関してはスペシャリストだ。彼女が言うならば、きっと安全なのだろうとは思う。
「心配なら、私が押してあげるわよ!」
「あ……」
ためらいもなく、ララさんがスイッチへと指を押しあてる。数秒のノイズが部屋に響いた後、若い男ものと思われる声が壁の穴から聞こえてきた。
『ブシャマシャ。ブシャマシャー?いるかー?』
「……」
通信機を通して、相手の呼びかけが続いている。これ……きっと俺たちが声を出したら、相手にも聞こえるんだよな?通信機の向こうにいるのはブシャマシャさんの仲間か?とすると、ここで俺たちが返事をしてしまえば、ブシャマシャさんがやられた事実が魔王軍に知られる恐れもある。俺たちはアイコンタクトをとった後、忍び足で部屋から出ようと試みる。
『もしもしー?』
「……」
『ん~。おかしいな……こちら魔王だけど、そっち誰もいないのか?』
「……ッ!?」
……え?魔王?
第100話の5へ続く






