第100話の2『センニーン vs ブシャマシャ』
「おおおおおおぉぉぉぉ!」
まずはブシャマシャさんが叫びと共に体へと光を集め、そのパワーを全て拳に集約させ始める。俺のいる場所は飛行船の横の方だから、飛行船の上で向き合っている仙人とブシャマシャさんの姿がよく見える。
「がははっ!喰らえッ!もちろん最初は……」
仙人とブシャマシャさんは昔馴染みで、じゃんけんのグーチョキパーを取り入れた格闘術を習っていたと聞いた。詳しくは第15話を参照して頂きたいが、その際にはバトルが始まる前にヤチャが介入してしまったので、いまだライバル対決に至っていなかったのである。
「パアアアァァァァ!」
「ッ!」
仙人が最初のグーを準備している内に、ブシャマシャさんが最初のパーを放ってきた。最初にパーはズルだろ……さすが魔王軍、汚い。
「ははは!センニーン!今のお前は最初のグー!パーの波動には近づけないいいいぃぃ!」
ブシャマシャさんの手から放たれている白いオーラは仙人の服を切り裂き、頭に被っていたウサギさん頭巾を吹き飛ばす。犬の獣人ゆえに全身毛むくじゃらの仙人が、唯一の不毛地帯である頭部をさらけだす。
「……がはは!愛する人も、頭の毛も、全てを失った!センニーン!あわれなり!」
「……ぐぐぐ」
「……ぬ!」
余裕の表情で波動を放っていたブシャマシャさんが目を見開き、じりと足を1つ下げる。そして、より一層の力を込めて、両手のひらから波動の嵐を巻き起こした。
「……なぜ、倒れない!いや……まさか!」
仙人は右手の拳をかためたまま、体の後ろに隠していた左手を持ち出す。それはチラリとピースサイン。
「な……両手で別々の手だと!?そんな技は、俺は知らんぞ!」
「右手のグーは勝利へのグー……わしの左手は、勝利のVサインだ!チョキチョキチョキー!」
「ぎゃああああぁぁぁぁ!」
仙人がチョキを振り抜き、ブシャマシャさんのパーの波動を散り散りにする。風圧を受けてブシャマシャさんが後ろに飛ばされ、間一髪のところで飛行船の突起をつかんだ。仙人は構えを解かぬまま、相手が上に登ってくるのを待っている。
「くそ!邪道が!」
「邪道はお前だ。魔王軍になど堕ちよって」
「世界は魔王様の手に入る!利口に生きろよ?センニーン!」
煽り文句を受けて、急に仙人は戦闘の構えを解いた。大きくため息をついたのち、言い聞かせるようにして続ける。
「あのな。ブシャマシャよ。1つ聞きたいのだが……」
「……?」
次の手に余念のない構えを取りつつ、ブシャマシャさんは無言で仙人の言葉を待った。
「お前が塔の外で色々している間、わしは何をしていたと思う?」
「……どうせ修行だろ?バカめ」
「お前が、わしの好きなマーニャちゃんと愛し合っている間、わしは何をしていた?」
「……」
「わしはな。わしは……この長い年月、修行しかしとらんのだぞ」
「……ッ!」
仙人は右手でグーのような……チョキのような……パーっぽい手を作り、同時に左手にも同じ形を作る。
「お前、わしに勝てると思うか?」
「くそっ!喰らえッ!ハイパー……グー!」
すかさず、ブシャマシャさんは両手に波動を集め、2つの拳をあわせて仙人へと殴り掛かる。それを仙人は……毛のない頭で受け止めた。ブシャマシャさんの拳の輝きを受けて、バリアの如く仙人の頭が光っている。
「……センニーン!貴様は人生の負け犬だああぁぁ!」
「人生に悔いはある。だが、言い訳する気は毛頭ない!ジャン拳……その裏の手!」
「……ぬぬっ!」
「……斬・物・衝……連携!グチョグチョパッパアアアアアアアアァァァー!」
「ぬあああああああぁぁぁぁぁ!」
仙人の放った斬撃、正拳、波動砲、それらが一体となってブシャマシャさんにぶつかり、その体を空の果てまで吹き飛ばした。一瞬だった。空の彼方が、色を変える程に白く光り輝く。もうブシャマシャさんの姿は見えない。魔王軍の隊長が負けたのを見て、飛行船にいた魔物たちもパラシュートを開いて地上へと消えていった。
「……ふう」
ガクンと飛行船が傾き、すぐにロボの中に光が戻った。敵の運転がなくなった事で、グロウが運転を再開したらしい。飛行船の上に座り込んだ仙人へ、俺は声を大きく呼びかける。
「仙人!大丈夫ですかー!」
「ん?あ……ああ、平気である。でも……」
「……?」
ぽつりと、仙人が空に向けて吐き捨てた。
「わしの憧れ、ブシャマシャに奪われたマーニャちゃんは……マルチーズの獣人でな。キレイな毛並み……美しい牙の並び……かわいかったのだ。悔やまれる……」
「そう……なんですか」
失恋を覚悟してまでも、世界と勇者の為に塔に残ってくれていたのだ。その点、仙人には感謝してもしれきない。でも、ブシャマシャさんは人間で、マーニャさんは獣人……つまり、異種族間カップルだったという新事実が、今一番の俺の驚きである。
第100話の3へ続く






