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第99話の4『いるとかいないとか』

 「これを渡しておく」

 「あ、すみません」


 それは精霊山へ行く際に持っていた、ガラス板の形をした通信機である。それを俺に手渡し、ゼロさんは迷子になったララさんを探しに行ってくれる。通信機の使い方が詳しく解らず、ボタンやスイッチらしきものがないかと手の中で回してみる。すると、通信機の画面は光を放った。


 『……おお。テルヤ君。かなり解ってきたぞ』

 「博士……ですか?」


 近い。画面には博士のアゴのヒゲっぽいものしか見えていないが、口調で博士の声だと察した。調査は順調に進んでいるようであり、博士は聞いた事もないような言葉を含めて、詳しくこと詳細に細かく事件の発端を説明してくれている……が、話を聞けども聞けども理解できないので、漠然と知りたいことだけ俺は質問してみた。


 「ええと……敵の居場所は遠いんですか?」

 『遠い……遠いし、高い』

 「遠いって。しかも高いって」

 「んだよ。遠いのかよ。んじゃあ、1人では行かねぇ」


 遠いし高いと知って、グロウは飛んでいくのをやめたようである。そんな高いところへ歩いていくのは無理そうだし、また魔導船を借りて出発するのが得策だろうか。ヤチャがいなくなってしまった今、魔法を使えるのはララさんとグロウだが……グロウは運転が荒っぽいし、いまだに仲間と呼んではばかられる。それにしても、ララさんは戻って来ない。


 「博士。ララさん、そちらに行きましたか?」

 『来てないけど?』

 『博士。精霊様、来ていないだろうか』

 『おお、ゼロ。街の様子なんだけど……』

 『被害は甚大ではないが、修復は早急に行う必要を考える』


 通信機越しにゼロさんの声がする。引き続き、博士は調査の報告を俺にくれる。


 『ここから先、かなり遠くだなぁ。しかも、高い。山……というよりも、岩のカタマリが空に浮いている場所。そこに膨大な魔力が観測されている』

 「膨大なって……それだけ敵が強いってことですか?」

 『そうとも言えるし、そうでないとも言える……そして、まずいぞ。これは……テルヤ君』

 「……?」


 通信機に映っていた博士のヒゲが消え、代わりに丸い球らしきものが映り込む。その一部がボウボウと輝いており、それが敵の魔力を表していると考えられた。まずいと言われてしまったら聞きたくない気持ちでいっぱいだが、博士は俺の気持ちには関わらず親切に教えてくれる。


 『これ……爆発するよね』

 「爆発……って、どのくらいのですか?」

 『このまま膨張していけば、世界の半分は消え去る。ファーストインパクトだね』

 「……セカンドもあるんですか?」

 『考えようによってはなくもないね』


 まずいまずいと前提をもって話していたが……本当にマズイ問題であった。早く来いとメッセージには書いてあったけど、つまりは早く来ないと世界を滅亡させるぞという脅しと捉えていいだろう。これは俺が考えていた以上に一刻を争う事態である。


 「……」


 待てよ……そんな危険な相手にヤチャが向かっていったとして、爆発の引き金となる可能性は考えられないだろうか。勝負に先んじて街を破壊する程の矢文を放ってくる敵だ。勇者以外の人間が下手に手を出したせいで、イラっときてパッとしてボッとなる可能性は否めない。


 「俺、ヤチャのあとを追います。博士、船を貸してください」

 『魔導船だな。あれでは、この高度は無理だ。改造するから、ちと待ちなさい』


 引き続き、魔導船の貸し出し許可をもらう。だが、あの船では敵の居場所へ辿り着けないらしい。そうした相談をしている最中、博士を探しに行ってくれていたララさんが帰還した。


 「はあ……はあ……大変!この研究所、博士いないみたいなのだけど!」

 「あ……大丈夫です。いました」


                               第99話の5へ続く


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