第99話の2『緊急対応』
「ん~。テルヤ君。これは果たし状じゃないのかね?」
光の矢が散ってできた文字を見て、博士が敵からの挑戦状だと推察する。今までだと、四天王のいそうな場所を調査して、情報を集めてから戦いになるパターンが多かった。だからこそ勝てたところもあった訳で、会って早々に直接対決というのは俺にとっては分が悪い。しかも名指しである為、タイマン勝負となれば勝ち目はないと思っていい。
「でも、博士。来いと書いてあるのに、どこの山へ行けばいいのか書いてなくてですね」
「たくさんあるからね。山は。君、おおよそ探知できたりしない?」
向かうべき場所が解らないので、博士は攻撃を受けてくれたアマラさんに出どころを聞く。アマラさんはハンマー状の武器の先端を地面に降ろして、こつこつと鳴らしながら目を閉じた。
「……私の右手の方角に魔力が残留している。でも、私の知らない人物の魔力だ。発射された場所までは解りかねる」
「それだけ解れば十分。あとは私が調べとくよ。ゴウ。ゼロ。レジスタの被害状況を調べてくれないか?防衛隊と連携を頼む」
「わかった。テルヤ。少し離れる」
「あ、はい」
ゼロさんはレジスタの土地勘があるから、この非常時に駆り出されることとなった。壊れた街の修理などは防衛隊や原住民の方々の仕事だと思われるが……アマラさんにしろバンさんにしろ、休む間もなく立て続けに事件と遭遇している状況である。勇者の俺より忙しいのではないだろうか……。
「アマラさん。俺もなにか、できることありますか?」
「そうだな……テルヤ君。ここに長居しない方がいいかもね」
「……?」
「結界で隠されていた聖なる泉の神殿、そこを出てすぐ、レジスタのバリアを突き抜ける程の魔力を放ってきた。それに、あの文字だ。おおよそ、居場所を把握されている」
「……ああ。なるほど」
そういや、レジスタってバリアで守られてるんだったな。俺が突入した時みたく、バリアのセキュリティホールをついたわけでもなく、単純に技の威力で貫いてきた。敵は相当な熟練者と見ていい。
「じゃあ、敵は勇者の知り合いってことよね?」
俺とアマラさんの会話を受けて、ララさんが横から疑問を差し込んだ。どうして、そういった結論になるのかと俺は戸惑ったが、さっきのアマラさんのセリフを思い出して納得した。
「敵は、俺の魔力を知っている人ってことですか?でも、俺……魔力ないですよ?」
「多分、それじゃないかな?」
アマラさんは俺の胸についているペンダントを指さす。運命のペンダントにも霊界神様の力が備わっている。すると、ペンダントの力に詳しくて、かつ俺を知っている人物か……。
「ふふふふ……」
「……?」
「ははははははッ!」
解らないことづくめな中、急にヤチャが空を見上げて高笑いを始めた。どうした?
「オレサマ!うれしい!行く……ぞぉ!」
「お……おい」
ギュインギュインと体を発光させ、こうしてはいれらないとばかりにヤチャはレジスタの上空へと飛び出していった。俺が引き止める暇もなく、その姿は見えなくなってしまう。
「……?」
「私も行くよ。セントリアルへの報告義務を果たす」
「あ……ありがとうございました」
アマラさんも板状の乗り物に足をかけ、ヤチャとは別の方角へと飛び去って行った。博士も光の矢について調べるべく、研究所へ戻るようだ。この状況下において俺はどうしたらいいのか、博士を呼び止めて参考意見をもらう。
「俺、どうしたらいいでしょうか……とりあえず、外にいた方がいいですか?」
「テルヤ君は……そこのドアを行ったり来たりしててちょうだい」
「……?」
「レジスタと研究所は魔力で繫げてあるけど、実際の場所は離れているからね。敵を困惑させられるかも」
「……ああ。そうですね」
ただレジスタにいると、レジスタに再び光の矢が降る恐れがある為、研究所とレジスタを行ったり来たりして翻弄する作戦である。博士の説明に合点がいったところで、俺はゆっくりとドアの間を行き来し始めた。そこへ、仙人がやってきた。
「……先程の攻撃、あれは何が……勇者よ。なにをしているのだ?」
「敵を惑わせるため、行ったり来たりしてます」
「ほほお」
とりあえず俺が無事だと解り、仙人はレジスタの仕事を手伝いに戻っていった。それから数分して、今度はグロウが俺の元へとやってくる。
「はあ。面倒ごとは御免だぜ……ん?勇者……おめぇ、なにしてんだ?」
「諸事情につき、ドアを行ったり来たりしている」
「……ああ?」
横でララさんとグロウが見ている中、俺はドアをくぐって行ったり来たりを繰り返している。したら、グロウが目を細めながら、俺にむけてつぶやいた。
「おめぇにも理由があるんだろうが……なんだ」
「……?」
「傍目に見てると、なんかよ。バカみてぇだな」
「……実のところ、ちょっと俺も恥ずかしいんだ。言わないでくれ」
第99話の3へ続く






