第98話の6『などと供述をしており』
「魔王や四天王について、お話をうかがいたいのですが……」
「……」
クロルさん、黙り込んでしまった。俺たちに情報を提供すると、魔王からの鉄槌がくだるのだろうか。あのカプセルに入っている以上、こちらからクロルさんに肉体的に脅しもかけられない訳で、あとは善意に甘える他ない。かといって、協力をあおぐにあたってクロルさんにメリットもないっちゃない。
「クロルさん。何か欲しいものとかありますか?」
「……あ?」
「……できる限りですが」
「……名誉!賞賛!圧倒的な優越感!俺が欲しいのは、それなの!お前、くれるってぇ?」
物ではないものを要求された。でも、ほめたらほめたで素直に受け入れないという……なんて面倒な人なんだ。俺が言葉を詰まらせていると、すぐ横でララさんがハッキリと言い放つ。
「あの人、魔王のことも、四天王のことも、きっと知らないのよ!こんなの放っておいて、別のことしましょう!」
「あああぁぁん?ちょっと待てよ!俺をこんなのって言ったぁ?」
「言ったわよ!」
「ちょっとララさん……」
「私、あんまり人間って会ったことなかったけど、あれはダメね!ダメ人間よ!」
ララさんの歯に衣着せぬ発言を受けて、クロルは悔しそうにカプセルを両手で叩いている。しかし、カプセルの方が強度は高かったようで、赤くなった手を押さえながら体育すわりへと移行した。
「俺をダメ人間って言ったああぁぁぁ!俺を、バカにするんじゃねぇ!」
「迷惑をかける人はいけない人だって、霊界神様が言ってたわよ!」
「俺だって悪くねぇ!全部、魔王が悪いんだ!」
あれ……あおりにあおった結果として、なぜか話題が魔王へと向いた。今がチャンスなんじゃないか?すかさず、俺は質問を差し込んだ。
「クロルさん。魔王と会ったんですか?」
「え……?」
「魔王って、どんなやつでしたか?」
「……」
激昂していた態度から一転して、クロルさんは口角を下げて見せた。そのまま、またぐったりとカプセルの中に倒れ込んで、そっぽを向いたまま黙り込んでしまう。
「……」
「……」
今までは、クロルさんが俺を嫌っているから喋らないのかと考えていたが、これは……もしかして……その、本当に知らないんじゃないか?半信半疑のままクロルさんを見つめる。そして、恐る恐るながらに俺は核心をついてみた。
「魔王をご存じない?」
「……ッ!」
クロルさんはビクリと体を震わせ、あごをガクガクさせながら俺をにらんだ。しかし、すぐにうなだれて、開き直ったように大きな声を出す。
「はい!はぁい!」
「……」
「ぼく……僕、科学者でした!自分で考える限り、がんばっていました!でも。あれ、私なんかよりあとに出てきて?そのくせ私が時間をかけても上手く行かないものを、なんなくこなしていくやつらが、あとを絶ちません!どんなにがんばっても、僕なんか誰もほめてくれません!理解されません!もう、生きていても仕方ないって、そう思いました!」
「……?」
「その時、空の彼方から、声が聞こえてきた!魔王ってやつの声だ!力が欲しいかってね!」
クロルさんの頑張り方や思想がこじれているせいか、博士たちが優秀かつ大衆の共感を得る意識の持ち主だったからか、クロルさんは人生の半ばで行き詰ってしまったらしい。そこへ、魔王の誘惑があったと……。
「僕に魔王は、俺に緑のオーブくれた!よく知らねぇが、四天王になってやった!信じられない魔力を秘めたアイテムだったよ!すげぇよ!オーブは!あれは!技術や性能なんて全て、力技で解決できた!なんだってできる希望がわいた!」
「これ……そんなにスゴイものなんですか」
ポケットから緑のオーブを取り出し、俺は輝きのない珠の奥をのぞく。魔力についても科学についても知識や能力がないからか、まったくもって何も感じない……。
「魔王から貰った力で、俺は生まれかわった!で……で?ついには神の制御に成功して、さあ仕返しだ!俺を認めなかったやつ、皆殺しにしてやる!そうした絶頂の中の俺だった……なのに、なんだお前ら?パッと出てきて、俺をバカにしやがって……希望を粉々にしやがった!」
「そんなこと言われても……希望が物騒すぎますし」
「特に、神の依り代を止めた、あいつ!あの男!なんだよ、あんな化け物が出てきやがって……ぶっ壊れかよ。納得いかねぇ納得いかねぇ!お前も、俺の作ったカプセルを……どうやったんだよ……わかんねぇよ!ああああーーーー!」
つまり、魔王の声が聞こえてきて、緑のオーブをたくされて、あとは好き勝手やったってことでいいんだろうか。だとすると、魔王や他の四天王については、会ってすらいないと考えられる。多くの人に迷惑をかけたとはいえ、それなりに本人も苦しんでいたと聞けたわけで、人として立ち直れるよう願いたい気持ちである。それはそれとして……。
「クロルさん。これから色々と大変だと思いますけど、やりなおす気持ちを込めて……そのカプセル出ませんか?」
「……」
クロルさんが引きこもっているカプセルの話をしたところ、絶叫していたクロルさんは一変して黙り込んでしまった。
「開け方……」
「……え?」
「……安全に作るあまり、これ、開け方が解んない!出れない!救えない!笑えよ……笑えよ!さあ!」
笑えよって言われても、色々と救えなくて笑えねぇ……。
第99話へ続く






