第32話の2『毒』
『謎の敵が襲い掛かってきた。勇者は、どうする?』
メッセージウィンドウが俺の目の前に表示され、今現在の状況を坦々と説明している。この現象が発生したということは、すなわち選択を間違えば死ぬ可能性があるのだろう、と考えてしまう。なるべくなるべく、まともな選択肢が出ることを願いつつ、俺は冷や汗を流したくても流れない時間停止状態のままメッセージが進むのを待った。
『1・イカダごと体当たり 2・ヤチャのパンツを脱がせる 3・ギザギザの仲間を探す』
……以前、もっと多彩な選択肢に翻弄されたこともあったが、今回の問題に関しては実質『1』と『3』の2択に見える。しかし、打撃による攻撃は効き目が弱いと解っている以上、もっともらしい選択肢である『1』にも疑問が生じる。
『3』ならば新たな情報を引き出せるかもしれないし、場合によっては加勢してくれるかもしれない。ただし、割と危機的状況である今、全く影も形も見当たらない人たちを探し出す余裕があるだろうか?かといって、『2』の真意は全てにおいて不明である。
この状況、選択を間違えば苦しい思いをするのは俺だけではない。なんとしてでも切り抜けたい。何かヒントはなかったか……俺は今まで見たものを思い返してみた。
ぶよぶよとした敵の姿、全容は把握できていないが……どうも、タコのように見えた。しかし、ギザギザさんはタコではないと言う。海のスペシャリストが言うのだから、それは信用できるのではないだろうか。
じゃあ、あれはなんだ。伸縮しつつ、どこか袋のような形をしている。体からは管のようなものが生えていて、酸の特性を持つ液体が出てきた。それ、すなわち……この世界の人たちには見慣れないものだが、日本での一般知識を持つ俺には何となく見当がつく。多分、あれは胃だ。
体全体が『胃』の生き物なんて聞いた事はないが、そうと考えれば対策も容易い。胃を苦しませるには……そう、毒物でも放り込んでやればいい。とはいえ、この状況で毒になりそうなものなんて……あっ。
『2・ヤチャのパンツを脱がせる』
……。
『2・ヤチャのパンツを脱がせる』
……あ……ああああ!たぶん、俺の予想が正しければ、答えはコレだ!とはいえ、あまりにも間抜けな展開が予想されるため、それはそれで俺も覚悟して、ちょっと迷いながらも選択を示した。
『2・ヤチャのパンツを脱がせる』
世界が動き出す。すかさず、俺はヤチャに質問を投げた。
「ヤチャ……最近、体は洗った?」
「ぼごご……洗ってはいないぞおおぉぉぉ!」
「でかした!パンツを貸してくれ!」
気泡の中に顔を突っ込み、ヤチャが期待通りの答えをくれた。パンツを貸してくれと頼んだのだが、ヤチャは着ている物を全て脱ぎ捨て、真っ裸の状態でパンツを差し出した。意外とゼロさんとルルルはヤチャの裸に反応なしなのだが、仙人とギザギザさんは見たくないものを見たとばかり顔を青ざめさせていて気の毒である。
う……なんて臭いだ。パンツの臭いがキツ過ぎて、今にも気を失いそうだ。俺の意識がなくなる前に、今度はルルルと仙人に頼みごとをする。
「これ、あいつの口にシュートできない?」
「今すぐやるんよ!」
「ふぁひゃひゃ!」
2人もパンツの臭いから逃れたい一心で、すぐさま行動に移ってくれた。ルルルがパンツを空気で包み、それを仙人が打ち出す。その一連の流れ、約3秒である。ヤチャのパンツを含んだバブルが酸を吐き出している口へと撃ち込まれた。
「……」
敵の動きが数泊だけ止まる。が、自分の中に入って来たものの凶悪さに気づいたのか、急に痙攣したような動作で体を震わせ始めた。
「見たか!化け物ガラスをも食中毒でやっつけたヤチャ……のパンツの威力!」
「俺様のパンツは……最強だあああぁぁぁ!」
第32話の3へ続く






