第98話の3『お手並み拝見』
「……?」
旅館の外に出てみても、空にレジスタの街の姿はない。ただ、どことなく威圧感というか、空に巨大なものが浮いているような感じだけはする。
「テルヤ。レジスタは透明になるから」
「あ、そうでしたっけ……」
レジスタの姿を探している俺に、ゼロさんが空の一部を指さしながら教えてくれる。まあ、あんな巨大なものが空を浮いていたら目立って目立って仕方がない訳で、あまり存在が公になっていないのも透明化しているからだと思われる。
旅館の前に置いておいた魔法で動く船は霊獣のサカナカナさんが守ってくれていて、野生動物や魔物に壊されたりすることもなく残っている。レジスタの姿はうかがえないが、船に乗って空へと上がれば入り口が見えてくるかもしれない。街へと向かう面々は船に乗り込み、霊界神様や精霊様と別れの挨拶をかわす。
「精霊様。試練、頑張って」
「……うん。ゼロちゃん、ありがとう」
「ルルル。がんばって」
「言われなくてもやるんじゃが……」
ゼロさんと俺とで言っている内容に差はないと思うのだが、なぜか俺の方にだけ反抗的である。ツンデレだな……。
「ララ。運転はできるのですか?」
「霊界神様!当然です!一度、やってみたかったのよね」
ここへ来る際に運転していたのはレーレさんとロッロさんであって、ララさんは横で見ている内に到着したので、実際に運転するのは初めてである。ケガの回復が済んだアマラさんも運転に興味があるのか、助手席っぽい位置で待機してくれている。
「じゃあ、出発するわよ!発進!」
グッと魔導船の船首が上がり、そのまま船底が、ふわりと地上から離れる。エレベーターを運転してた時も安定してたし、ララさんは魔力の扱いに関して長けているように思える。まあ、精霊様なので当たり前なのかもしれないが、そこに関しては安心した……。
「ララさん。うまいですね」
「え……そ……そうでしょ?私に任せておきないさい!」
俺の声を受け、ララさんは照れたように顔を赤くしている。同時に魔導船の船底からは炎が上がり、ものすごい勢いで船が空へと飛び立った。あまりのスピードに振り落とされそうになったが、すんでのところでヤチャが手を引いてくれた。
ララさん……ほめると調子が悪くなるタイプのようである。あまりほめないようにした方がいい気もするが、それはそれでむくれそうなので難しい問題である。
「で、どこ行けばいいの?私」
「……ゼロさん。どうやってレジスタを見つければいいんですか?」
「あれだ」
空の一部がピカピカと光っている。太陽の光とも違い、たしかに不自然な明るさである。あそこがレジスタの正規の入り口なのだろう。魔導船はジェットかターボかロケットの勢いで、レジスタの街の入り口へと向かって飛んでいく。
点滅する光へと近づくにつれて、ぼんやりとレジスタの街の外観が見えてくる。実際に街はあるのだが、それを光の屈折か何かで見えないように隠しているらしい。雲をかき分けた先、レジスタの頂上にある公園……いや、レジスタに一晩ずっと乗って疲弊しているであろう、霊獣のジャジャーンさんが見えてきた。
「……勇者よ。休めたのか?」
「あ……はい」
「ジャジャーンは疲れた。こうなるならば、自力で戻ってくる方がよかったぞ……」
「……ですか」
ずっと一晩中、レジスタの上でとぐろを巻いていたのだ。そりゃあ疲れる。そして、それを黙って支えているニュフフンさん。そちらはもはや、文句すら出ない。お疲れさまだ……。
第98話の4へ続く






