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第97話の5『世界について』

 「勇者様。運命のペンダントは、どちらに」

 「あ……ここにあります」


 一応、四天王より奪ったオーブと、師匠から預かった運命のペンダントは常時、ポケットへと入れておくようにはしている。ペンダントを霊界神様の前で取り出し、ぼんやりとしたペンダントの輝きを手のひらに閉じ込める。


 「それは、運命のペンダント。神が作りし、潜在能力を呼び覚ます魔晶石」

 「……これも、霊界神様が作ってくれたんですか」

 「神の骨から作りました」


 ……?


 「え……これ、霊界神様の骨なんですか?」

 「はい」


 ……おお。ただの石かと思っていたものが、それなりに神様の大切なものからできていると知り、俺は驚き余って落としそうになった挙句、ちょっと触るのも気持ちはばかられる心境となった。その後、俺は足元から何かが浮かび上がってくるのを知った。


 「……?」


 今、俺と霊界神様は宙へと浮かんだ状態となっている。だが、足には洞窟の地面を踏んでいる感触はある為、ホログラムのようなものが地面に映し出されているのだろうと思われた。辺りの霧が深くなるにしたがって、大地や海、川や街などなどの風景が鮮明に描写されていく。


 「ええと……霊界神様。これはなんですか?」

 「この世界。小さな世界の、全体像です」


 よく見れば、大陸の中には俺が立ち寄った場所もある。セントリアルの街は大きくて目立つ。宙に浮かぶレジスタは見つからないが、それに似た形の山はある。パワーアップの塔も建っているから、今現在の世界を映し出したものではないのだろうと考えられる。


 「これは、世界……すなわち、神の姿です」

 「……?」

 「ペンダントは神の一部、神骨石に魔力を込めたものです」


 やや理解するのに時間がかかったが、とどのつまり……この世界、大陸全体が神様の実体なのだと思われる。だから、大陸の石は霊界神様の骨も同然であって、生身の体から引き抜いた骨を削ってペンダントを作ったなどという、生々しい話ではない……はずである。


 引き目に見た大陸は平たい形ではなく、歪な形で球体となっており回転している。セントリアルの街は映像でみると横向きになっているし、パワーアップの塔に至っては真下に伸びている。すると、世界の核となる部分に重力があって、世界の端と端はつながっている。大陸というよりは、小さな星なんだろうと見られた。


 「この小さな世界、神は気候や大地を整え、調和を求めた。そういうことになっていました。ですが、神にも抑えられない驚くべき速さで、世界は魔王軍の手におちました」

 「この世界自体が霊界神様なのに、魔王軍を止められなかったんですか?」

 「解らない。気がついた時には、すでに魔王軍の闇は神を侵食していた。魔王軍を止める。止めない。以前の問題であった。時を切り取ったかのごとく、ある日を境に世界は変化していた」


 魔王軍……いや、それを率いる魔王とは、何者なのだろうか。ふわりと辺りの映像が消え、洞窟の白い岩壁が現れた。同時に俺も足がついている地面を目視でき、平衡感覚を取り戻しつつ霊界神様と向き合う。


 「勇者よ。勇者様よ」

 「はい……」

 「勇者様が魔王のオーブを手に入れたことで、次第に魔王の力が弱まっています。可能な限り、神も背中を押しましょう。残るオーブは1つ、頼みました」

 「わ……解りました」


 オーブの力を利用して、魔王は霊界神様を縛っていたのだな。そんなオーブも4つの内の3つを強奪したわけで、それなりに霊界神様の力も戻ってはいるのかもしれない。お話をしながらも、霊界神様は運命のペンダントへと手を向ける。ペンダントは呼応するようにして、優しい光を放っている。


 「ペンダントの力が消耗しています。神の力を補充しました」

 「ありがとうございます」

 「神の頭蓋骨で作られたペンダント……お役に立ててください」

 「頭蓋骨だったんですか……」


 これ、頭蓋骨なんだ……じゃあ、この現在地は霊界神様のどこにあたるのか。気になったけど、変な場所だったら神聖な雰囲気が薄れそうなので、あえて聞かなかった。


 「なお、この場所は神の……へそです」

 

 なお、親切に教えてくれた……へそでしたか。


                                第97話の6へ続く

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