第97話の2『誰なの?』
「ちょっと!人間の人!ジャマしないで!」
「すみません」
ララさんに怒られているが、それよりアマラさんが神通力を使えちゃうことの方が不思議なのではないだろうか。俺は宙から体を降ろしてもらいつつ、霊界神様に審査を求めた。
「これ、できたんですか?何か不正の可能性は?」
「いえ……できていますが」
「テルヤ君……なぜ不正を疑うのか」
できてはいるらしい。とはいえ、霊界神様も言葉をつぐんでいるからして、できる人もたまにいる……程度の話ではない様子である。別の人が目の前で簡単にやってしまったせいか、ルルルは無気力な態度で座り込んだ。
「もう、お前が次の神になればいいんじゃないのかと思うん」
「……それは断りたいな。面倒そうだし」
「……神より質問をします。あなたは、何物なのですか?」
霊界神様がアマラさんに身の上を尋ね、本人も答えかねて笑っている。隠している……という感じもない為、きっと本当になんでもない人なので、言うべきことがないのである。
「……私は、普通の人間だよ。魔法のセンスは、他の人達よりもあるかもしれない。しかし、それだけだ」
「神の力を持つ者は、霊界神と空気の精霊。残るは……大賢者でしょう」
「……」
大賢者……初めて聞く言葉だ。その人物についておぼえがあるのか、アマラさんは笑顔こそ絶やさぬまま無言でいる。アマラさんの答えたくない気持ちを察してか、霊界神様はアマラさんの力だけ認める形で話を終えた。
「……よろしい。あなたが今、敵ではない。その事実だけを神は受け入れます」
「ありがとうございます……」
大賢者……と聞けば、なんとなく仙人のようなおじいさんを思い浮かべるが、この見た目でアマラさんが大賢者なのだろうか。だが、そうだとすると霊界神様とは面識があってもよさそうなものである。ちょっとだけ話は脱線してしまったが、ルルルの修行を再開するべく、霊界神様は休んでいるルルルへと視線を送る。
「ルールルルルールールー。諦めますか?」
「むむ……やるんよ。で、霊界神様……」
「どうしましたか?」
「これ……できるようになったら、何が変わるのん?」
子どもに勉強させようとしたら、その目的と理由を述べるのは大切である。まあ……俺を浮かせることができるようになったところで、元からルルル自身が飛べるから、俺を持って滑空するくらいはできるのだ。これは一体、なんのための修行なのだろうか。そう考えていたら、こちらへと急に話が振られる。
「……勇者様。魔王城の場所は、ご存じで?」
「いえ……知らないです」
「……4つのオーブをおさめる場所……昇竜の門をご存知ですか?」
「……存じ上げないです」
今回、新しい単語が多いな……などと困惑しつつも、聞かぬは一生の恥であるため、俺は知らない旨を正直に告げた。なお、知らなくて申し訳ない気持ちを込めて、後頭部へ手を当ててみたりする。
「勇者様。魔王城は、別の時空に存在します。その地へ向かう方法は……昇竜の門に隠されています。門へ向かうにあたっては、ルールルルルールールーの力が必要となるでしょう」
「……聞いたか?そうらしいぞ。ルルル」
「別にやりたくないなんて言ってないんよ……」
ルルルが神の力を会得しない限り、昇竜の門へは辿り着くのも難しいと知る。だが、旅に必要不可欠と聞いて俄然としてやる気を出したのはララさんの方で、どうしたら神通力を扱えるのかとアマラさんに聞いいている。
「あなた、ちょっとはできるんでしょ!教えなさいよ!」
「私はテルヤ君を浮かせるくらいは可能だが、神様の重さを浮かせる能力はないかな」
「いいの!ちょっとだけでいいから!」
ほんの少しでもいいからヒントが欲しいと、ララさんが懇願している。その横で、ルルルも目を半開きにしつつアマラさんを見つめる。わずかに考える時間を作ってから、アマラさんは短く伝えた。
「……僭越ではあるのだけど」
「……?」
「まず、着替えだね。形から入るといいんじゃないかな」
ララさんもルルルも、いまだ浴衣を着たまま修行している。この状態で試練に身が入るのかというと……確かに。
第97話の3へ続く






