第32話の1『ぶよぶよ』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。海賊団のリーダーだという魚人間の案内で海底へ沈んでいるアジトへと向かったのだが、それは既に得体のしれない何かに乗っ取られていた!
『ボボボボボボ……ゴオオオォォォ!』
なんだあれは。沈没船の中に何か、ぶよぶよした赤黒いものが潜んでいる。それは伸縮しながらアジトの中で暴れていて、あぶれた空気の泡や船の破片が音を立てて海面へと上がっていく。
「ギザギザさん。あれがアジトなんですよね?」
「だよ!」
「中に仲間がいるんじゃないんですか?」
「……かもだ!あの野郎!断じて許さねぇ!」
化け物の姿に呆気にとられて、ギザギザさんも判断が鈍っていたらしい。彼は仲間のことを思い出すと、体を回転させながら化け物に向けて殴りかかっていった。化け物……というと、あれがギザギザさんの言っていた化け物……なのか?それにしてはギザギザさんも、初めて見たような反応だった気がするけど……。
「ギザギザウロコパンチ!」
ギザギザさんの腕に並んでいるウロコが逆立ち、まるで鉄製のブラシのように鋭く尖る。そいつをパンチのついでに突っ込まれ、化け物の柔らかな皮膚に血がにじむ。このまま倒せるんじゃないかと期待してしまうが、さすがにムシが良すぎた……。
「ギョハハ!斬り刻まれたくなけりゃ、さっさと……ギョアアアァ!」
窓から出ている部分に気を取られていたせいか、別の場所から伸びてきたブヨブヨにギザギザさんは足を取られている。それを見たヤチャがイカダから飛び出し、ギザギザさんを助けるべく敵……というか、アジトである沈没船ごと敵へと殴り掛かる。それはそうと、ヤチャがおさえてくれていないとイカダが浮かんでしまうため、こっちはこっちでルルルがなんとかしてくれている……。
「ボハハボハボハァ!ボハァ!」
ヤチャが何か言っているが、水の中だから翻訳不能である……が、ヤチャのパンチによって半壊した沈没船の中にはブヨブヨが充満していて、それが一つの大きな物体だと見て取れた。多分、それについて何かコメントしているに違いない。立て続けにヤチャが化け物へと百裂拳を叩き込むが、相手が柔らかすぎるせいか、水中にいて力が発揮できないせいか、効果は今一つのようである。
「ギザギザの名をなめるなよ!ギャババァ!」
ブヨブヨに巻き取られそうになっていたギザギザさんは体中のウロコを張り上げ、凶器と化した全身を大きく動かしながら強引に脱出する。
「ぼおおおぼぼぼははあああぁぁぁぼおおぉぉぉはあああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ!」
ギザギザさんの脱出するタイミングを見て、ヤチャはゴボゴボいいながら敵へ目掛けて手より光線を放つ。しかし、攻撃の効き目が薄いと感じ取ったからか、ヤチャも俺たちの方へと戻って来た。
「バババボハボハバ!」
「うん。斬撃以外は効きそうにないな……」
「勇者。ヤチャが何を言っているのか解るのか?すごいな」
「いえ、実のところは解りません……」
「ありゃ、タコなんてやわなもんじゃないぜ!もっと別の何かだ!」
「やわらかなものではありそうですが……うわっ!こっちにくるぞ!」
水中にいるヤチャの言葉に適当な答えを返したり、それをゼロさんに感心されたり、ギザギザさんの揚げ足をとったりしていると、ブヨブヨの化け物は管のようなものが俺たちの方へと伸ばしてきた。どんな攻撃を仕掛けてくるのか解らず身構えていると、管の中から黄色い液体が噴き出してくる。それに驚き、俺は慌てて飛び退いた。
「なんだこれ……うわっ!」
流れゆく海水を押して、謎の黄色い液体がイカダを包んでいる泡の中へと侵入。とっさに俺は液体をかわしたものの、液体が付着したイカダの一部はグツグツと溶け出している。これは物を溶かす酸だ!
「空気を切り離すから、下がるんよ!」
酸のついた場所の泡だけをルルルが分離させ、さらなる酸の浸食を防いでくれた。分離した泡に仙人が手のひらを向けると、それは殴り飛ばされるように敵の方向へ飛び出す。仙人の飛ばした気泡にぶつかって敵の管は一時的に怯むが、すぐに管の先端を立て直して攻撃の動作を見せた。
このままじゃいずれ、イカダが溶けてなくなる……いや、吸う空気もなくなる!なんとかしないと。焦って対策を練り始める。二回目の酸攻撃がくる!その直前、久々に世界が時間を止めた。
第32話の2へ続く






