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第96話の2『好き』

 「……えっ?」

 「……嫌ならば断わってくれてもいい」

 

 女の子が肌を見せてくれると言っている訳で、女の子が大好きな俺としては嬉しい限りである。手術あとが痛々しいなどという理由で、俺がゼロさんを嫌いになる訳もない。でも……。


 「……俺が服の下を見たら、ゼロさんをキライになる。そう考えたんですか?」

 「……解らない」

 「……」

 「……そうではないという、その証拠が欲しいのだと思う」


 そんなゼロさんの気持ちを、心いっぱいの不安を、晴らしてあげられる方法を、俺は確実に知っている。だけど、それをする為には勇気が必要だ。今回、勇気を出して先に行動をおこしたのはゼロさんの方で、だから俺は誤魔化さずに答えなくてはいけない。わずかにゼロさんの顔……より下へと視線を落ち着け、俺は相手の首元を見ながら自分の心の中を探った。


 「でも……ゼロさんが、俺に服の下を見せる必要はもうないんですよ」

 「……?」

 

 今度は俺からゼロさんの手を握って、手袋の下にある肌の感触を指に伝える。女の子にしては、やや大きくて固い。丈夫そうな手だ。


 「……俺がゼロさんを好きかどうかなんて、考えなくていいんです」

 「……」

 

 俺はゼロさんの手から指を動かして、今度は腕を触ってみる。魔道具はついていない。俺の腕よりも細いけど、中に丈夫な芯が通ったような触り心地だ。次にゼロさんの肩をに触れる。せまい肩幅が小刻みに震えている。


 「……」

 「……」


 俺はゼロさんの顔に両手をのばした。ほほは柔らかくて、両目は色素が薄い。あちらも、俺を見つめて、まばたきをしている。吸い込まれそうな大きな目だ。その中に俺が映っている。少しだけ体を離して、それから俺はゼロさんの髪に触れる。


 「俺、もうゼロさんが好きだから。何も心配しなくていいんです」

 「……」


 馬の被り物をした人からの貰い物で悪いのだが……それは、いつか渡そうと思っていた髪飾りである。髪の柔らかな感触を指にまとわせながらも、俺は髪飾りをゼロさんの髪につけてあげた。ゼロさんも髪飾りに触れて、すると体から一気に緊張が抜けてしまったのか、座り込むようにして尻もちをついた。俺も、きっと顔が真っ赤だろう。部屋の灯りをつけなくて本当によかった……。


 「……勇者。あの」

 「……?」


 ゼロさんは体育すわりの姿勢をとって、うつむきながら俺に頼みごとする。


 「もう一度、聞きたい……」

 「……俺、ゼロさんが好きだから」

 「……」

 「好きです」

 「もう……大丈夫だ」


 俺、どんな顔をしてるんだろう。心臓の音が頭の中から聞こえるようだ。俺もゼロさんと目線の高さをあわせるようにして、ゆっくりと畳の上に腰を下ろした。片手で髪飾りを触りながら、ゼロさんは目をうるませている。


 「……勇者。体が熱い。私、おかしいのだろうか?」

 「俺も同じです……」

 「……あと、喉が締め付けられる。苦しい」

 「そういうものだと思います」

 

 そりゃ、俺だって。俺だって、告白の練習は前の世界でしたけども、実際にするのは初めてだから、解らないことばかりだ。でも、リードしてあげたいという気持ちから見栄を張って、まるで知ったような口をきいているのだ。ちょっと心と体の整理がついた辺りで、改めてゼロさんは俺に尋ねた。


 「もう、恋人……でいいのだろうか」

 「……まだ俺、ゼロさんの答え、聞いてないので」

 「……」


 俺に言われて気づいたのか、ゼロさんは俺に触られたほほを自分でも撫でてみる。それから、か細くも消えそうな声で、真っ直ぐに俺へと答えを返した。


 「勇者。私……」

 「……」

 「私も……テルヤが、好き……」


 ……急な名前呼びはズルい。


                                   第96話の3へ続く


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