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第95話の3『脱衣所』

 魔導船からの見晴らしがよすぎて、移動中の俺は船の床ばかりをながめていた。なぜなら、高い所が怖すぎるのだ。当然、誰かと何か話をするでもなく目的地へ到着する。


 「ここが泉なのか……なんか、俺の思ってたのと、ちょっと……いいや。大分、違う」

 「私も、閑静な場所を思い描いていたが……これは立派な……」


 そう言っているからして、バンさんとアマラさんも俺と同じく、美しくも静かに光る泉を思い描いていたに違いない。だが、その実態は温泉旅館っぽい建物である。もちろん俺たちの他に来ている人はいない訳で、見方によっては貸し切り状態である。霊界神様は浮遊して船から降り、出迎えてくれたリリーさんとサカナカナさんに声をかけた。


 「リリー。サカナカナ。無事に辿りつけたようですね」

 「はい!霊界神様、ご無事でなによりですぞ!」

 「サカナカナ、迷った。でも、ちょっとだけ」


 サカナカナさんの体は泥まみれであり、体の大部分は地面の中へと沈んでいる。川で会った時には気づかなかったが、土の中も泳げる魚の霊獣様だったんだな。そして、やや都合が悪そうな表情のリリーさんへ、すぐさま赤い精霊のララさんがくってかかる。


 「リリー!みんなが戦ってる時に、一人だけ箱にかくれたの、私は忘れてないわ!」

 「リリーは後悔しているのですぞ!だから、こうしてご奉仕の精神を見せているのですぞ!」


 リリーさんが仲間を見捨てて箱に隠れた事実が明るみになったものの……まあ、そのおかげでリリーさんを探しに来た魔物と神殿で鉢合わせになり、リリーさんの代わりにルルルが誘拐され……いや、よく考えてみたら褒められる部分は特になかった。これは、ご奉仕もやむなしである。


 「ルールルル!あんたも、腕が治ったらご奉仕する側よ!」

 「う……わかりましたののののん……」

 「『の』は1つでいいのっ!」

 「さあ。泉は神殿の中です。神の導きを見つめ、こちらへいらしてください。サカナカナよ。船の警備を頼みます」

 「ラジャー」


 サカナカナさんに魔導船を見ていてもらい、俺たちは案内されるがままに旅館……神殿の中へとお邪魔した。さすがにレジや物販はないようだが、入り口から先は木造であり、俺たちは下駄箱にクツを入れた後、ゆかをギシギシ鳴らして先へと進んだ。廊下の左右には溝があり、砂利を敷かれた水路に透明な水が流れている。


 「……あ」


 幾つかの部屋をスルーしつつ真っ直ぐに通路を進んでいくと、道が2つに分かれている場所へと辿り着いた。右の道の垂れ幕には男、左には道には女と漢字で書かれている。神の導きなくしては入れない聖域……という気持ちで俺は入ってきたが、今の気分は完全に温泉旅行である。


 「霊界神様!リリーは男の通路には入れないですぞ!羞恥心ですぞ!」

 「こちらへは神がお連れします。リリーは女性の方を」

 「解りましたですぞ!」


 女性の方……といっても、ゼロさん以外はルルルも含めて全員が精霊様である。こういった場所だと解っていたら、ミオさんにも来てもらった方が場の空気もまとまったかもしれない。まあ、ルルルとリリーさん以外に悪い子はいないようなので、きっと大丈夫だと信じて俺は男湯の方へと進む。


 「神は支度を始めます。みなさん。こちらで衣服をなるべくお脱ぎください」

 「これ、持ち込んでいいですか?」

 「ご自由に」


 『男』と書かれたのれんをくぐると、その先は予想の通り脱衣所であった。バンさんが手ぬぐいとタオルを指さし、そちらの持ち込みの可否を霊界神様に尋ねている。


 「脱ぐぞおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 すごい意気込みでヤチャは脱ぎだしたのだが、そもそも彼は元からズボンしかはいていないので、そこまで頑張って脱ぐ必要はない。勢いでヤチャが全裸になってしまったので、腰元だけは隠すようにとタオルを渡した。


 「バン大佐……足は、かなり痛むかな?」

 「俺は大丈夫ですよ。アマラさんの方が傷は酷いじゃないですか……」


 服を脱いだバンさんの足は俺が想像していた以上に赤くなっており、この状態でクロルとの戦いまで来てくれたと考えると感謝しきれない。アマラさんに至っては全身が切り傷だらけにも関わらず、それをまったく顔に出さない。強い。


 「勇者さん。どうしました?」

 「……いえ」


 なかなか服を脱がない俺に気づき、バンさんが声をかけてくれる。一応、俺が勇者なんだが……皆さんに無理ばかりさせて申し訳ない。それに加えて、皆さん……筋肉のついた良い体だ。そう思ったら、なんだか服を脱ぎにくくなってしまった。


 「テルヤ君、はずかしいのかな?ならば、私たちは先に行くけれど」

 「あ、すぐ脱ぎますよ」


 アマラさんたちに待っていてもらうのもなんなので、すぐに俺は服を脱ぎ始めた。そうだ。俺だって、この世界に来てからは歩き詰め、戦いに明け暮れる日々だったのだ。その成果として、ちょっとくらい筋肉がついている可能性は……可能性は……。


 「……」


                              第95話の4へ続く

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