第95話の2『聖なる泉?』
「もうダメかと思いましたが、パーフェクトの実があったおかげで頑張れました。神様、ありがとうございます」
ギリギリ嘘ではない範囲で霊界神様へとお礼を言い、最後のサラダを霊界神様へお供えする。霊界神様は口が大きく開かないのでサラダを食べられず、お供えしたあとのサラダは俺が頂いた。ケガの具合などを鑑みつつ、聖なる泉へ行くメンバーに目星をつけていると、病欠しているヤチャがどうなったのかと気になった。
「博士。俺の仲間のヤチャのこと、知りませんか?」
「ああ、彼か!来てるよ!ここに!」
「え?ほんとですか?」
「おお。ほら、あそこ」
博士が指さした方にはヤチャ……いや、紫色の肌に黒いトゲトゲの生えた、身長4メートルほどはあろうという魔人が立っていた。俺は手を振ろうと腕を上げるのだが、うめくような魔人の声が聞こえたと同時に、上がった腕も恐怖心から自然と下がった。
「ころ……ころす!ぐぐぐ……ぐぐぐぐがががが」
ヤチャと呼ばれた人物は、とても味方とは思えないセリフを発している。俺が動向に注視していると、魔人は俺たちの方へとにじり寄るようにして歩き出した。すぐにでも逃げたい……。
「ころす!ふー……ふー……」
「博士……あの。ヤチャは、大丈夫なんですか?大丈夫なんですよね?」
「私が会った時には既に、あんな状態だったが……今のところ、誰も殺そうとはしてないよ?」
「ころす……ころ……ころ……」
「あの……ころころ言ってるんですけど」
「いや、口だけ口だけ」
魔神は舌足らずな殺すを連呼しつつ、俺の方へと向かってくる。だが、霊界神様の後光へ1つ近づくたび、体の紫色はメキメキと剥げていった。人間離れしていた大きな体も縮み、生え放題だったツノもボロボロと砕けて落ちた。そして、俺の目の前に来た時には既に、いつものヤチャの姿へと戻っていた。
「テルヤ……ふふふふ」
「……ヤチャ。大丈夫か?」
「だ……だいじょうぶだぞおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
数秒前までは全然、大丈夫じゃなかった気がするが……それはさておき、霊界神様のけがれをはらう能力は凄まじいようである。精霊山から発生していた黒い雲はクロルを倒したことで止まったので、ヤチャやカルマさんの妹さんも体調は徐々に良くはなるのだろうが、こういった症状も聖なる泉で緩和できるのだろうか。
「あの……霊界神様。一刻も早く、聖なる泉へ行ければと考えているのですが」
「神もまた、同意です。しかし、神の力で運ぶには、相応の時間を要してしまいましょう」
精霊山から連れ出してはもらう際は超常的な力で床を浮かせていたが、そのスピードは徒歩の程度で決して速くはなかった。ここから神殿の付近まで戻ると考えると、キメラのワンさんたちが調査を終えるのを待って、レジスタで送ってもらった方が早いかもしれない。そんな俺の考えをくんでか、博士が軽い口調で提案する。
「いいのあるけど、先に行く?」
「え?いいのってなんですか?」
「魔導船」
そう言って、博士は公園の奥側にある検問広場を指さした。船……そういや、俺たちがレジスタを出る時にも、船っぽいものに乗って出発したんだったな。乗った傍から落ちたから解らなかったけど、あれは魔法の力で動く船だったのか……。
「んー、そうだなぁ。魔導船は魔法が使える人、目的地の場所が解る人が必要で、他に8人は乗れるかな。全部で10人くらい?」
「ルルルは連れて行くとして、ケガをした人はアマラさん、バンさん。ゼロさんと、病人のヤチャを入れて……あと5人くらいですね。俺は痛み止めの魔法さえかけてもらえれば、気長に待っても問題ないですが……」
「……勇者は行った方がいい」
「……だって俺、恥骨だし」
「ダメだ」
ケガも酷くないので急ぎの旅を遠慮したところ、珍しくゼロさんから強めに注意された。おでこに血止めの布こそ巻いてはいるが、痛みも今のところは特にない。それに、聖なる泉でケガが治ると言われても、別に行って楽しそうな場所でもないし、みんなで冷たい泉につかっているのも気持ち微妙である。
「……解りました。俺も行きます。他に傷をいやしたい人がいたら、あとで来てもらいましょう」
という経緯があって、俺とゼロさんとヤチャとルルル。あと、アマラさんとバンさん、赤と黄色と緑の精霊様たちで聖なる泉へ向かった。船首のように船へと鎮座している霊界神様の導きに従い進んでいくのだが……聖なる泉へ近づくにつれて、なにやら和風な建物が見えてきた。どことなく、硫黄の臭いも鼻に届く。これは……。
「よ……ようこそですぞ。聖なる泉へ」
魔導船が地上へ降りると、建物の入り口にて和服を着たリリーさんに迎えられた。旅館……温泉……ここ、本当に……聖なる泉か?
第95話の3へ続く
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