第95話の1『治療法』
{前回までのあらすじ}
俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。四天王・クロルとの戦いの末、緑のオーブも手に入れることに成功し、迎えに来てもらったレジスタの街へと無事に乗り込む。そして、今はレジスタの街でサラダを食べているところ。
「ルールルルルールールー。野菜は美味しいですか?」
「うん。とっても美味しいわ」
野菜を食べて清められたせいか、霊界神様に怒られないようつくろっているのか、未だかつて見た事がない程にルルルの口調が正しい。かくいう俺も、草ばかりムシャムシャと口にしていたら、段々と草食動物のような気持ちになってきた。
もともと俺はオラオラしている肉食系男子ではないのだが、恋愛アドベンチャーゲームの主人公は意識せずとも勝手にモテるものなので、あまりがっつき過ぎない方が格好は様にはなるような気がする……という勝手な俺のイメージ。なお、実際に恋愛ゲームの世界へ行った事はないので、真偽のほどは定かではない。
「精霊様。あーん」
「むむ……むむむ……」
「ゼロさん……ちょっとペースが早いんじゃ……」
ケガをしていてルルルは手を自由に動かせないので、ゼロさんは常に次の野菜スティックを片手に準備しつつ、ルルルの口先に野菜スティックをそえている。もはや食べているのか押し込まれているのか解らない状態になっているが……ルルルの口が小さいせいで、なおも食べさせられている感が凄い。
現状、最後の四天王の居場所や、それらしき情報に心当たりはない。次に何をすべきかといえば……とにかくルルルの腕を治してあげたいと俺は思っている。霊界神様は治療の方法を知っているらしいが、具体的にはどうすればよいのか聞いてみる。
「霊界神様。ルルルの腕なんですが……」
「その件ですが……精霊神殿から見える山のふもとに、聖なる泉があります。そちらに傷をひたせば、治すことができるでしょう」
「そんな回復ポイントが……」
「勇者様の体も、さぞや酷使していると見受けられます。特に恥骨のあたり……」
霊界神様にかかれば、俺が恥骨を折ってしている事すら一目瞭然なのか……神の目、恐るべし。
「博士。恥骨とは、どのあたりにあるのですか?」
「博士……言わなくていいので……」
「うん。じゃあ、言わない」
ゼロさんが恥骨の場所を気にしてしまったので、そこは博士に言わないでおいてもらった。そこを気づかってもらってしまったら、それはそれは恥ずかしい骨なのである。ともあれ、俺も魔法で強制的に体を動かしている身であって、魔法の効果が切れたら一歩も動けなくなる重傷者だ。このケガも治せるものなら、なおしておきたい。
「神より、感謝の言葉を差し上げます。勇者様よ。ならびに、協力を惜しまず命をかけた方々。感謝を込め、聖なる泉へお招きいたしましょう」
「お願いします……アマラさんのケガが重症なので、治せるといいんですけど」
「神を足止めした人間ですか。彼は……何者なのですか?」
「……アマラさんはセントリアルの人なので、俺も詳しくは解りませんが」
アマラさんを含めて、セントリアルやレジスタの人たちがいなかったら、グロウがいたとしてもルルルを取り戻せたかは解らない。いや、メカに封じられた霊界神様を止められる人は、アマラさんを除いて誰もいなかったはずだ。そんな強い人が、どうしてセントリアルにいたのか。一緒に泉へ行く道すがら、素性を聞いてみてもいいかもしれない。
「ねえ、霊界神様!私も聖なる泉、行ってみたい!」
「ワタシもです!イキタイです!」
「ええ、よろしいでしょう」
見たところ、ルルルも聖なる泉の存在は知らなかった様子だが、ララさんやレーレさんもも同じく見た事がないらしい。名前からするに聖地のようだけども、みんなで行ってもいい場所みたいだな。旅行が決まってキャッキャしている精霊様たちを見ていると、霊界神様から何気なく声をかけていただいた。
「ところで……勇者様。パーフェクトの実を知っていますか」
「……あ、はい。どんな傷でも病でも、たちどころに治るという、あの」
パーフェクトの実って……たしか、旅に出てすぐの頃、ヤチャが俺にくれたアイテムだったっけ。あれも霊界神様の授けてくれたものなのだろうか。
「パーフェクトの実……それは、聖なる泉の力を結晶化したもの。神が長い時をかけて作り上げました」
「あ……そうだったんですか」
「……パーフェクトの実を神は、勇者の師匠様へ預けました。有効に活用していただけていれば幸い」
う~ん……小腹を満たすのに使ってしまった。気まずい……。
第95話の2へ続く






