第94話の5『この世界は改ざんされている』
「結論が結論過ぎて、もうちょっと説明が欲しいんですが……」
『……霊界神様は、世界の秩序と理を統べる。勇者へと力を授け、パワーアップの塔の建設を計画された。そういうことになっている』
俺の要望に対し、ニュフフンさんがテレパシーで解説を入れてくれる。仙人はルルルと顔見知りで、パワーアップの塔に勇者が来るまで守っていた。すると、ルルルと知り合いの霊界神様が塔やペンダントを用意してくれたと見て、おかしくはなさそうだけど……何か変なところがあるのだろうか。ニュフフンさんのテレパシーに続けて、霊界神様が顔を上げる。
「私は魔王の力へ対抗するべく、勇者の育成を開始しました。しかしです。魔王の侵略が始まったのは、つい最近の事。それ以前に、魔王の脅威について、記された歴史は、一つもないのです」
「……ええ?」
『霊界神様は、勇者の存在を作った。霊獣は、霊界神様や精霊様を古来よりお守りしている。そういうことになっている。そのような事実となっている』
「他にも、記憶や世界の構造、神の力をもって照合した結果。どうしても、つじつまのあわない点が多数……いえ、非常に多く見つかりました。この世界は、つじつまがあっていないのです」
「……霊界神様。な……何をいってるのん?」
まあ……この世界の住人であるルルルが、すぐに理解できないのも仕方はない。主人公を養成している世界から来た俺の観点でいうと、作者が前に作った設定を忘れてるだとか、お話の構成を間違えたから少しずつ修正してるだとか、そんな感じなのかとも思うのだが……ここで言及されたとなれば、ただのメタ発言ではないのだろう。ルルルに何といおうか考えている霊界神様へ、博士は珍しく困惑した表情ながら挙手しつつ尋ねる。
「ちょっと確認ですが……とすると、私は博士。ということになっている?」
「一概には言えないが、神は神。そういうことになっています」
「ははあ……そう言われてみれば、私がとっておいたおまんじゅうが、知らない内になくなってたこともあったなぁ……あれも改ざんされた歴史かも」
博士のおまんじゅうは単純に誰かが食べたのではないかと思うが、言われてみれば……俺も思い当たる節はある。同じ日に別世界へと旅立ったオメガ君がバトルものの主人公だったから、当初は何かの手違いでオメガ君の行く世界と逆の世界に来てしまったのではないかと考えていた。
ただ、それにしては……俺の行くべきだった世界と、この世界で、共通点が見受けられるように思えるのだ。中でも、ミオさんは俺が行くはずだった世界の未央さんと、かなり性格などが似ているような気がする。あと、トチューの街で会った馬の被り物をした占い師も、霊界神様と似たような話をしていたを記憶がある。
そして、この世界……バトルものにしてはコテコテというか、別の作品で見たような設定が非常に多く含まれているように思う。いや、バトルものだから随所では似てる設定があってもおかしくないのだろうが、それにしても露骨というか……でも、俺が他のバトルもの主人公の真似をしている場面もあったので、そこについては詳しく語らない。いや、怒られそうだから語れない……。
「勇者よ。私は霊界神。この世界では、その神の名を持つ者にも理解の及ばない、不自然な現象が発生している。お気をつけなさい」
「霊界神様。1ついいだろうか」
「ええ」
霊界神様のお話をうかがい、今度はゼロさんが疑問を取り出した。
「改ざんとは聞くが……何者の手によるものなのか、目星はついているのだろうか?」
「……この世界、ありとあらゆるものは、全て繋がっている。自然の摂理に基づけば、必ず関連性がうまれる。よって、今回の不自然を神は改ざんと呼びました。考えうる可能性は……」
『……おそらくは、魔王』
「……であろうな。ジャジャーンも、そう思う」
話に全くついてきてなかったジャジャーンさんが最後をしめてくれた……それはさておき、やはり原因は魔王の線が濃厚か。段々、この物語の結末が見えてきたぞ。もしかして……魔王を名乗っているやつも、俺の知っている……。
「霊界神様ー!買ってきたわ!」
ララさんが手いっぱいに袋を持って、俺たちの元へと走ってくる。その後ろに、もっと大量の袋を担いだ仙人がいるのだが……仙人。犬の獣人なのに、ウサミミ頭巾をレーレさんにセレクトされちゃったのか……。
第94話の6へ続く






