第94話の3『自由行動』
「……このジャジャーン、謎の浮遊物体へと見事、とぐろを巻いた!」
「そのジャジャーンを、ニュフフンが支えている」
歩いて帰らせるのもなんだと……いや、ジャジャーンさんはヘビだから歩いてはいないのだが、霊界神様はサイコキネシスっぽい力でジャジャーンさんを浮かせて、レジスタの街の上に乗せてあげたらしい。その作業が終了した旨、ジャジャーンさんとニュフフンさんの声が上の方から聞こえる。
「テルヤ君。悪いけど、私たちは少し休むよ」
「あ……アマラさん。はい。ありがとうございました」
無事にレジスタの街へと乗り込み、俺たちは最下層のゴミ捨て場にいる。霊界神様の光を受けて体の痛みは取れたものの、アマラさんとバンさんのケガが特にヒドかったので、2人はカリーナさんのつきそいで、レジスタの宿屋へと行ってもらった。宿屋はネオンが派手だから……まあ、上に行けば簡単に見つけられるだろう。
他に大きなケガをした人は……ルルルとキメラのツーさんであろう。キメラのツーさんは博士に治療をお願いするとして、ルルルは……どうしようか。
「ルルル。まだ腕は痛むか?」
「う~ん……痛いっていうか、かゆい」
「治り始めています。本格的な治療を行うまで、あまり動かさないように」
霊界神様が言うには、ちょっとずつ治っては来ているらしい。でも、まだ本格的な治療はできないようだ。そこへ、エレベーターを降りて博士やキメラの皆さんがやってきた。
「やあ、テルヤ君。ゼロ。無事でなにより」
「博士。戻りました。こちら返します」
ゼロさんはガラスの板で出来た通信機を博士に返し、その横をキメラのワンさんやスリーさん、フォーさんたちが駆け抜けていく。そのまま、彼らは俺たちがレジスタへ入った穴から飛び出していった。ここ、かなり高いんだが……そう心配して俺がのぞいてみたところ、全員がパラシュートを開いて精霊山へと入っていくのが見えた。逆に、俺が高さに耐えきれず顔を引っ込める。
「ええと……博士。ワンさん達、何をしにいったんですか?」
「ん?ああ。クロルの回収。それと、精霊山の内部の調査だ。強い魔力は感じないので、ワンたちに任せれば問題ない。が……彼らが戻るまで、ちょっと出発できん」
そういや、俺はクロルを倒してオーブを手に入れただけで満足していたが、その後の始末までは頭になかった。まだ出発に時間がかかるという博士の話を聞いて、グロウが俺の肩を叩く。
「俺、じつはよ。そろそろメシの時間なんだぜ?」
「あ……ああ。自由に歩いてきていいと思うぞ」
「私も、防衛隊に報告をあげにいくっす」
「あの……報告は僕、カルマ・ギルティの専売特許のはずだ。しゃしゃりでないでほしいな」
みんな、それなりにやることがあるようで、グロウは飯を食べに行き、ミオさんとカルマさんもレジスタ防衛隊本部へ向かった。ここに残ったのは俺とゼロさんと霊界神様、ルルルと精霊様たち……そして、精霊様たちに体の毛をイジられている仙人である。こんなゴミ捨て場に神様を長居させるのも都合が悪いので、ひとまず俺はレジスタの上の方へと移動しようと考えた。
「博士。どこに行きます?」
「そうだなぁ……とりあえず、飲む?」
「また……神様の前ですよ……」
とは言ってみたが……お神酒という文化も日本にはあったし、むしろお酒をお供えした方が礼儀としてはなっているのだろうか。俺は霊界神様の顔を見る。
「神に異存はありません」
「いいんですか……というか、霊界神様って口、開かないですよね?」
「なになに?私も飲む!」
「お、飲むか?試しに」
「やめてください……絶対ダメです。俺の国の法律的にアウトなので」
幼女のララさんがお酒に興味を持ってしまったので、ここは断固として居酒屋へ行くのはやめてもらう。
「んじゃあ、上ね。神様らしく、上に行こうね」
神様らしく上にの意味は解らないが……そう言う博士の案内について歩いていくと、以前はなかった個室のエレベーターが用意されていた。レジスタにはエレベーターとは名ばかりの、上下に動くロープしかなかったので、それ以降に博士が作ってくれたものだと思われた。
「ではでは……この中で誰が一番、魔法が上手いかな?」
「私!私に決まってるでしょ!」
「おっ!ここに魔力を込めてくれる?」
「しょうがないわねー!」
博士の質問に対し、ララさんが意気揚々と手を上げる。ララさんは言動が生意気そうな反面、ルルルほど斜に構えていなくて、ちょろ……とても単純でイイ子である。
「……お兄ちゃん……今、あたちのこと見てなかったのん?」
「見てたけど?」
「むむむむ……」
ララさんが操作盤に手を当て、力をこめる。扉が閉まり、少しずつエレベーターは上昇を始めた。セントリアルにあった魔力式エレベーターと同じものだろうか。初めてエレベーターを使ったはずなのに、ブレイドさんよりもララさんの方が操縦が上手い……。
「ねぇ。まだ?私、もう疲れた!」
「もうちっと。上に着いたら、ジュース買ってあげるから」
「よーし」
博士に言いくるめながらも、ララさんの操縦するエレベーターは安定した動きで最上階へと到着した。扉が開く。天井のガラス越しに張り付いて見えるのは……ぬめぬめとしたジャジャーンさんの腹のアップであった。うわぁ……この絵面もキツイ。
第94話の4へ続く






