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第93話の4『捨て身の治療』

 「博士。他に方法はなさそうですか?」

 『ん~。精霊たちと同じように、取り出して結晶化すれば、あるいは』


 そうなると、カリーナさんに竜のメカの近くまで行ってもらわなければならないが、今はアマラさんが死ぬ気で食い止めてくれている最中である。頻繁に光線やらが飛び交っている状態なので、今現在は俺たちがいる場所ですら安全とは言えない。


 「あたち、やってみる」

 「……やるのか?」

 「うん……うまくいくかは解らないんじゃが」


 魔法やメカに詳しい博士でも安全な手段が思いつかない以上、俺が別のアイディアを出せるものでもない。いや、何か案はないかと考えるだけは考えてみたが、その分野について見識が無さ過ぎて全く発言できなかった。魔力増幅装置が危険だという話を聞いて尚、ルルルはやると言ってくれてはいる。


 「ルールルル!私も疲れてるけど、霊界神様を助ける為に協力よ!」

 「ロッロも、ルールルルに力を集めましゅ」

 「ワタシもワタシも」


 ルルルが一番、霊界神様の魔力の性質に近いとの事なので、他の精霊様もルルルに魔力を集めるらしい。ララさんとロッロさん……それと、その横から急に知らない人が横から出てきて俺は少し面食らった。その姿は緑色の服を着た色っぽい女の子で、きっと彼女がサソリのメカに入れられていたレーレさんだと思われる。


 「ララ!ロッロ!ルールルル!ワタシも、ありったけ!チカラをつかいますよ!」

 「レーレ……あの。お兄ちゃん」

 「……ん?」


 ゼロさんから魔力増幅装置を受け取ると、ルルルは今まで見せた事がないような、なんだか子どもっぽい泣き顔で俺に話しかけてきた。


 「お兄ちゃん……あたち、霊界神様に謝らないと」

 「……だろうなぁ」

 「……」

 「まあ……俺は何も言えないけど、そばにいるよ」

 「……うん」


 霊界神様と精霊だから……親子の話みたいなものだと思われる。俺が横から口出しできるものではないだろうから、近くで見ている事くらいしか約束できない。それでも、ちょっと気持ちが楽になったような声で、ルルルは俺に頷きを返した。


 「……これ、どうやって使うのん?」

 「こうして、にぎる。強く」

 

 ゼロさんが持ち方をレクチャーし、片手に水晶を握ったポーズのまま、ルルルは魔力放出の準備を始めた。霊界神様へと向けて掲げたルルルの手にララさんたちも手をそえ、彼女たちは霊界神様へと視線を向けた。


 「いい?私がいっせっせーのって言ったら始めるわよ!」

 「なんでララが仕切りだしたのん」

 「いいの!いっせー……あっ!いっせっせーのでって言ったでしょ!」

 

 ララさんの『いっせー』で魔力の放出が始まり、虹色な光線がルルルの手から飛び出した。それは霊界神様が放つものとは違い、近づいても体に痺れなどは感じない。光線によって黒い雲はのぞかれ、空からは太陽が顔を出した。


 「おお……いけるんじゃないか?」


 光線は霊界神様まで届いているようで、竜のメカの体についた黒いツノや模様は剥がれ落ちている。これなら、霊界神様を助け出せるかもしれない。


 「……ッ!」


 霊界神様の動きが鈍くなった……それを俺が見ていると、近くで何かの割れるような音がバリンと響いた。そちらへ目を向ける。魔力増幅装置を持ったルルルの手が、ひび割れたように黒くなっている。


 「ルルルッ!」

 「ううう……」


 黒いヒビ割れは腕まで広がっており、苦しそうな声も聞こえてくる。水晶を手放させた方がいいのか?俺はルルルの手を見つめる。でも、痛くても、ルルルは魔力増幅装置を手放さない。痛くて手放せないのか?いや……ルルルの目は霊界神様を見据えている。


 「……ルルル!がんばれ!」

 

 俺はルルルの後ろに回り、両手をルルルの肩に乗せた。ルルルがやる気なのなら、俺が止めていいはずがない。がんばれ!俺には何もできないけど……がんばれ!俺には何もできないけど!


                                 第93話の5へ続く


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