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第93話の1『緑のオーブ』

 {前回までのあらすじ}

 俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。仲間であるルルルを助け出すべく精霊山へ侵入し、なんとか四天王のクロルを撃破した。

 「……はぁ」


 疲れた……というよりかは、むしろ一気に緊張がほどけたせいで、体に力が入らないといった感じだ。それでも、気絶して動かないクロルを見つめている内、無事に敵のボスを倒せたという安心感も染みてくる。俺は手に持っている緑のオーブを見つめた。


 緑のオーブは他のオーブと同じ形をしていて、クロルの体を離れた今は輝きを失っている。これでオーブは3つめ……無謀だとしか思えなかった冒険が、まさかの折り返し地点を超えた。このまま、運よく魔王を倒せてしまったりするのだろうか。いや、魔王を倒す為の旅ではあるのだが、まだ俺はバトルものの世界で自分gな戦っているという現実に違和感をおぼえている。


 「……」


 上の方の階では大きな物音が鳴っている。ゼロさん達が戦っているのだろうか。俺のズボンは流れる水でビショビショになっていて、ここから早く抜け出したい気持ちは大きいのだが……まだ足がふらついて歩けそうにない。なので……少し休ませてもらいつつも、クロルを倒した戦いの解説をしようと思う。


 まず、戦闘に入る前の事だ。どうして俺が戦いの前に『意気込みを語った』かというと、それはキメラのツーさんにメッセージを送るためであった。相手が固いカプセルに入っている旨を伝えつつ、ポケットの中に手を入れて、キメラのツーさんに指先で合図を送った。ここで意図が伝わっていなかった場合、俺はカプセルに激突して死んでいた訳で……ツーさんの察しがよくって本当に助かった。


 次に、クロルの放ったミサイルだ。俺とクロルの距離は少しあったので、パンチより先にミサイルで攻撃してくる可能性は高かった。遠隔操作はできないと予想された為、すぐに体勢を低くしてかわしたのだが……問題はミサイルの爆風だ。まさか、体を吹き飛ばされるとは思っておらず、やや予期せぬ方向へ戦いが進んでしまう。でも、そのおかげでクロルに強烈な一撃を与えられる結果となった。


 クロルの動きを止めるにあたって赤のオーブを使ったのは、上の階で日光を浴びたクロルが苦しんでいたのを見ての事であった。バンさんが炎の弾を撃つ前まではカプセルにコーティングが施されていたようだったので、あれがなかったら光の目くらましは失敗していたかもしれない。


 そして、最後にキメラのツーさんの力を借りてカプセル内に侵入したのだが……ツーさんは体力を多大に消耗していて、障害物を貫通できる状態は長く維持できない考えられた。だから、俺はクロルのカプセルと衝突する間際に大声を出して、キメラのツーさんに合図を出した。カプセルが薄い作りになっていたのも幸いであった。


 「……よし」


 戦いの詳細は、こんなところだろう。体の痺れも取れて来たので、そろそろ歩けそうだ。どうにかしてゼロさん達がいる場所に戻らないと……そう考えて立ち上がり、周囲の様子をうかがう。すると、天井に穴が空いて光が差し、上の階から誰かが降りてきた。


 「……勇者。無事だったか」

 「あ……ゼロさん。それと、仙人?」

 「おお、勇者よ。加勢には間に合わんかったが……どうやら、不要であったようだな」


 迎えに来てくれたのはゼロさんと、獣人の姿をした仙人であった。ここに仙人がいるとなれば、他の精霊様についても救助が終わったと考えていいのだろう。俺が緑のオーブを手にしていた為、すでに勝敗が決したことは2人にも伝わったらしい。2人の元へ歩み寄ろうとした矢先、俺は水の流れに足をとられて倒れそうになった。だが、すぐにゼロさんが抱きとめる形で体を支えてくれた。


 「……す……すみません」

 「上に連れて行く。失礼」


 ゼロさんは俺をお姫様だっこし、先に上の階へとジャンプしていった仙人のあとを追った。その途中、聞こえるか聞こえないかという小さな声で俺に語り掛けた。


 「確かに、勇者は嘘をつくこともあるかもしれない」

 「……え?」

 「自分では弱いと言っているが、私は、そうは思わない」

 「……ああ」


 そう言ってもらえるのは嬉しいのだけど、俺は自分で言う通り本当に弱くて……みんなの力があったから、結果的にクロルを倒せたに過ぎない。それでも、ゼロさんに強いと言ってもらえたら、俺は俺なりに気を強くもって頑張れそうだよ。


                             第93話の2へ続く


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