第92話の5『光が差して』
『ああああぁぁぁぁ!娘ッ!壊したなぁぁぁぁ!』
「だって、自爆するって言うっすから!」
自爆装置はエネルギー充填中にケーブル差込口を破壊され、高まっていたメーターの針や、派手な光は一気に勢いを沈めてしまった。手っ取り早く俺たちを消し去ろうとしていたクロルが、作戦の失敗に激怒してロボットの腕を振り回し始める。
『ガスッ!出てこい!ガスッ!』
俺たちがクロルの攻撃から退避する。クロルは何かを呼びつけるように声を張り上げた。ガスってなんだろう。そう考えていたところ、部屋の中央についている大きな管の中から、黒い砂のブロックのようなものが飛び出してきた。黒いカタマリは何回にも分けて吐き出され、積み重なると巨人のような形を作ってそびえたった。クロルはロボットの腕を使ってよじ登り、黒い巨人の頭の部分にカプセルごと飛び乗る。
『ガス。やつらを潰せ。もういい。あとも残すな』
「ご……ご……ごああああああぁぁぁぁ!」
ガスと呼ばれた黒い巨人は野太い声を発している。あれもキメラなのだろうか。黒い巨人は大きな足で俺たちを潰しにかかるが、それに伴って近くにいたサソリのメカが蹴り飛ばされそうになる。
「あ、レーレさん!」
「勇者。私が行く」
サソリのメカと黒い巨人の間にゼロさんが割って入り、巨人の足を魔道具の衝撃波で打ち返そうと試みる。だが、巨人の足はトラックほども大きさがあり、それを止めるのも簡単ではない。なんとか足を打ち返して巨人をよろめかせることはできたが、ゼロさんの右腕についていた魔道具は衝撃で腕から剥がれ落ちてしまった。
「……くッ!」
『ジャマなんだよぉ!』
まずはゼロさんから叩き潰そうと、クロルは黒い巨人の向きを変えて足を上げさせた。右腕の魔道具が壊れてしまった為、ゼロさんは残っている左腕を構えるのだが、明らかに魔力の準備が追いついていない。なんとかして助けないと……。
「……あ」
そう考え始めた中で、俺はゼロさんの背後にいるサソリのメカが、光線の発射準備をしているのを発見した。そうか。自我がないから、命令のままにゼロさんを狙っているのだろう。これはマズイ……いや、これだ!
「……いけぇ!」
サソリのメカが光線を発射する直前、俺は光線の発射口が上に向くようにメカを転ばせた。ゼロさんの背中を狙っていた光線は機械の腕をはねのけ、黒い巨人の肩をかすめて天井に直撃する。
「勇者!すまない!」
「い……いえ」
ゼロさんを助ける事には成功したが、俺がサソリを転ばせる為には破廉恥な気持ちにならないといけない訳で……さすがにサソリのメカを対象として破廉恥な事を考え続けるのは疲れる。その上、それなりに集中が必要なので、クロルの相手をしながらサソリを転ばせ続けるのは厳しい。
『しぶといねぇ。でも、あんたらに勝ち目はないよね』
クロルの攻撃で俺たちに負傷はないものの……あちらは焦る様子もなく俺たちを煽っている。言われた通り、俺たちにはクロルのカプセルを破る方法がない。黒い巨人を倒す手段も見つからない。サソリのメカを守りながら、足止めもしないといけない。まったくもって……これは厳しい状況だ。俺が周りを見て状況を整理し始めた。その時、ズドンと大きな音がして部屋全体が大きく揺れた。
『おおっ!』
「うわっ……」
なんだ?そこへ再び、部屋を大きな衝撃が襲う。これは……きっと、アマラさんと霊界神様の戦いの流れ弾だ!その攻撃が精霊山の頂上付近に当たっているようで、サソリのメカの光線でついた天井のヒビが大きくなる。そこから、うっすらと太陽の光が差し出した。
『……う……うおぉぉ!目が……肌が……ッ!』
「……?」
天井から差し込んだ薄い光を受けて、黒い巨人の上に乗っているクロルが苦しみの声をあげ始めた。クロルからの司令を失い、黒い巨人は事前の命令を守るようにして俺たちを狙い足を大雑把に振り回し始めた。これ……もしかして、チャンスなのか?
「ゼロさん!あそこ、飛ばせないっすか!?」
「……了解!」
ミオさんが黒い巨人の首元を指さし、ゼロさんへと呼び掛ける。すぐにミオさんの言いたい事をくみ取ったらしく、ゼロさんはミオさんの体を両腕で持ち上げ、的確にクロルのカプセルがある場所へと投げ飛ばした。
「……極剣!大回転斬り!」
ミオさんが両手で振った剣は黒い巨人とクロルのカプセルを分断し、クロルの入ったカプセルが床へと落ちてくる。落ちて……ぶつかった床が抜けた!その近くにいた俺も、一緒に下の階へと落とされる。
「しまっ……わあああああぁぁぁぁぁ!」
『ぐああああああぁぁぁぁぁ!』
俺とクロルの絶叫が重なる。滑り落ちるようにして下へ下へと落とされ、俺は広めに作られた下水道のような場所に尻もちをついた。足元には水が流れており、ズボンが汚い水を吸ってベトついている。
「いてて……」
『……許さん!お前……許さない!』
少し離れた向こう側にクロルのカプセルも落ちていて、ただれた顔と鋭い目で、クロルが俺の姿をにらみつけている。上の階からは大きな物音が聞こえ、黒い巨人が暴れているのだろうと予想された。背後を見ても、逃げ道はない。落ちてきた穴はガレキにふさがれていて、登ろうにも上へは戻れない。
「……これは」
……四天王と完全にタイマンになってしまった。どうしよう。
第92話の6へ続く






