第92話の4『元を絶って』
ルルルを包んでいた泡が再生するより早く、カルマさんがルルルの体を持ち去った。ルルルの体についていた細い管は引っ張ると簡単に外れ、そのままカルマさんは壁を駆け降りるようにして俺たちの元へと戻ってくる。そして、着地と同時に、その後の動作を俺に報告する。
「僕、逃げますね!いえ、逃げます!」
「カルマさん!お願いしますッ!」
『な……おいっ!小僧!待て!』
「僕は待たない!」
この室内の現状を鑑みて、なによりまず俺はルルルの救出を優先したかったのだ。でも、俺たちに部屋の高所まで行く余裕はない。そこで俺たちが時間を稼いでいる間に、足の速いカルマさんがルルルを助け出して逃げる作戦をとった訳だが……まさか、壁を走って登れるとは思いもよらなかった。しかし、これで予定より早く、人質を取られずにクロルと正面から向き合える。
「レーレさん。すみません!」
俺は立ち上がろうとしているサソリのメカへと指先を向け、全ての足を同時に滑らせて転倒させた。レーレさんがクロルに狙われないよう、ミオさんとゼロさんがサソリのメカとクロルの間に入る。クロルは怒りに任せて、カプセルから伸びている手で攻撃を仕掛けてくる。
『ジャマだあああぁぁぁぁ!お前もお前も、削除してやる!』
「秘剣・なぞり返し!」
ミオさんがロボットのアームをはねのけるが、非常に硬いのか切り落とすまでは至らない。隙をついてゼロさんも魔道具から衝撃波を発射するものの、クロルの入っているカプセルや手足はビクともしない。
「ふせろ!」
バンさんの声を受けて、ミオさんやゼロさんが頭を下げる。離れてはいるが一応、俺も下げておいた。バンさんの撃ち込んだ銃弾がクロルのカプセルへ当たる。すると、今までの爆発する弾とは少し違い、弾丸はクロルのカプセルを包み込むようにして炎を広げた。
『くっ……くそがぁ!』
クロルはカプセルごと回転させて、自身に燃え広がった炎を振り払った。『絶対無敵カプセル』などと安直に名付けるだけの事はあって、カプセルには傷や曇りの1つも見えない。でも……なんだろう。どことなくカプセルは炎を受けて、表面にあった青色の膜みたいなものを剥がされたように思えた。
『く……くくくく』
「……?」
『もういいや。終わりにしよう』
振り回していたロボットアームをだらりとたらし、クロルが不気味な笑みを浮かべつつ声を発した。カプセルの中にいるクロルは長い髪をかきあげると、全てのロボットのアームを束ねて1本のケーブルのように変形させ、背後にある何かの機械の端子へと突っ込んだ。
『私は。この中にいれば、絶対に安全なんだよ』
「な……なにするつもりだ!」
『簡単なこと。この山の近辺一帯、全部、消滅させちゃえば、すなわち私の勝ちなのだ』
その返答を受けて、俺は背後にある機械がなんなのか察しをつけた。あれは、超巨大な自爆装置だ!この山の付近を消し飛ばしてしまえば、カプセルの中にいるクロルだけが生き残る事ができる。そんな、この上なく乱暴な作戦である。マズい!ロボットのアームを止めるべく、俺とミオさん、ゼロさんが駆けだす。
『カガク的オーバードライブまで……10……』
クロルがカウントダウンを始める。見たところ、ロボットのアームを介してエネルギーを送り出しており、自爆装置のエネルギーが満タンになったら爆発すると予想される。俺はロボットの腕へとしがみつき、全体重を使って装置から引きはがそうと試みる。
「ぐぐぐ……」
ダメだ……ゼロさんも魔道具から出た衝撃波を撃ち込むが、ロボットのアームで作られたケーブルは硬くて断ち切ることができない。
『5……4……』
「もうダメだ!うわあああああぁぁぁ!」
カウントダウンが終わる!選択肢も出ない!俺は観念して頭を抱え、無駄とは思いつつも爆発にそなえて頭を抱えた。
『……ゼロ!ひゃははは!終わりだあぁ!』
「……」
『……んん?』
……あれ?爆発は起こらない。俺はクロルの顔を見て、それからロボットアームを辿って、自爆装置まで目をやった。アームは自爆装置の端子へと繋がっている。だが、その差さっている差込口が……剣で切り取られて床へと落ちていた。
「あ……こっちをくりぬいたっす」
俺が慌てている間にも、何も言わずにミオさんが仕事をしてくれた……ロボットの腕もカプセルも丈夫なのに、そこは脆いのか……。
第92話の5へ続く






