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第92話の3『隙を見て』

 クロルが待っている部屋の扉は両開きの構造で、非常に大きく作られている。ただ、取っ手らしきものに手をかけて力を入れるも、どうにも俺の力ではビクとも動かない。


 「……あれ?」


 よく見ると、俺の目の前には手のひらのマークみたいなものがついている。これに手をあわせると、自動ドアのように扉が開く作りなのだろうか。俺が右手を持ち上げる。すると、少し離れた場所から、カルマさんが心配そうに声をかけてきた。

 

 「ゆゆゆゆゆ……勇者さささささ!ぼぼぼぼぼぼ……」

 「な……なんですか?」

 「……僕!本当に、逃げてしまっていいんですよね!?」

 

 事前に説明した作戦について、カルマさんから最終確認を受けた。現状、それが一番なのではないかと判断した上で、みんなの合意を得て出した結論だ。多分、問題ないと思われる。


 「いいですよ」

 「あとあとになって、卑怯者などと言わないでしょうね?その時は僕、心の奥の内の内から心底、見損ないますよ?」

 「絶対に言いませんよ……おおっ!」


 突然、ピシャッと音を立てて、目の前にある扉が上にスライドして開いた。早く中に入れってことか……俺は薄暗い部屋の中へと、ゆっくりと1人で足を進めていく。すると、部屋全体が真っ赤なライトで照らせれ、研究施設のような室内が明るみとなった。同時に、クロルの声が聞こえてくる。


 『よおこそ。ここまで来るとは思えなかった!天才にも解らない!予想外!期待外れだ!』

 「お……お前が、クロルだな?」

 

 部屋の中央にはサソリ型のメカがいて、緑色の光を目や細部から放っている。その奥にいるのは……なんだろう。青い半透明なカプセルの中には上半身裸の男が入っていて、そのカプセルからはクジャクが羽を広げたように、ロボットのアームが数多に伸びている。あのカプセルの中にいる男がクロルなのだと考えられる。


 『小僧。お前が勇者だ。そうだろう』

 「ええ」

 『そっかそっか……残念だけど、これにてジ・エンドだ』


 クロルが俺に向けて指をさす。それを合図として、サソリのメカは尾についた針を俺に向け、光線の発射準備を始めた。俺は左手でペンダントを握りしめ、右手をサソリのメカへと向けた。集中しろ!集中だ!


 『……撃て!』


 クロルの声にあわせて、サソリのメカは尾の部分から強い光線を放つ……その直前、サソリのメカは脚を滑らせ、ガガンと態勢を崩した。サソリのメカが放った光線は俺から照準を大きく外し、天井へ目掛けて光線を放つ。上から振ってきた瓦礫を避けつつも、再び俺はサソリのメカへと指先を向けた。今度は逆の足をすべらせ、サソリのメカが大きく転倒する。


 「よしっ!」

 『こ……小僧!何をした!』

 

 サソリのメカに入れられているのは、きっと魔力化させられた精霊のレーレさんだ。マップ上の、この部屋には彼女の名前が表示されていた。そして、神殿で見た限り、レーレさんは他の精霊様たちよりも大人びている。つまり、ヒロインとして扱える!俺は、あのメカは転ばせることができる!


 『言えよ……なにしやがった!』

 「……教えてあげない」

 『ぐぐぐぐ……』


 さすがに俺の能力『ラッキーパンチ〇』までは把握していなかったようで、クロルは理解不能とばかりに声を荒げている。サソリのメカが役に立たないと解り、今度はクロルがロボットのアームからミサイルを撃ちだした。


 『天才の私が解らないことをするなあああぁぁぁぁ!死ねええええぇぇぇぇぇ!」


 大勢で一気に部屋へ入ると、あらぬ方向へ撃たれた光線をよけられない懸念があった。なので、俺が部屋の入り口から離れたのを見計らって、他の皆も部屋へと駆けこんできてもらう算段となっていた。俺の方へと飛んでくるミサイルを見つけ、すぐにミオさんが剣を構えつつ走り出す。


 「……秘技・走撫斬!」


 ミオさんの剣にふれたミサイルは軌道をそらされ、光線と同じく誰もいない方向へと飛んでいった。続けて、ゼロさんがクロルの入っているカプセルへと殴り掛かる。


 『どんな攻撃も、この装甲には無意味である!名付けて、絶対無敵カプセル!』

 「それは承知の上だ」


 カプセルは頑丈なようで、ゼロさんの拳を受けてもヒビすら入らない。そもそも、ゼロさんは勇者ではないから、クロルを痛めつけることはできても、倒すことはできないのは解っている。だから、まずは時間稼ぎだ。バンさんは高い場所にいるルルルの方へと銃口を向け、2発連続で銃弾を放った。


 「……よしっ!壊れたぞ!」


 ルルルの閉じ込められているものは泡のような材質だったらしく、1発目の銃弾を受けて大きく歪む。続けて2発目の弾を受けて破裂した。あとは点滴みたいな管で体を繋ぎ留められているだけ……なのだが、バンさんの報告が耳に届いて数秒後、ルルルの周りを覆っていた泡は再生を始めた。


 『全員、動くな!あいつが、どうなってもいいのか!?』


 対峙していたゼロさんを退け、クロルはロボットアームをルルルの入っている泡へと向ける。やはり、人質として使ってきたか。脅しの声を聞きながらも再度、バンさんがルルルの入っている泡へ銃弾を撃ちだした。


 『そんなことをしても、無駄なんだよお……ッ!』


 ルルルの周りにあった泡が割れる。その瞬間、そこからルルルの体が持ち出された。そうだ。俺たちには、もう一人、仲間がいる。ここでルルルを救い出すお兄ちゃんは俺じゃない。


 「僕だ!」


                                  第92話の4へ続く

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