第92話の2『垣間見て』
ミオさんとゼロさんが通路を先導してくれており、その後ろを俺が続く。次が逆立ちしながら走ってるバンさんで、最後尾がカルマさんである。精霊山の階層としては毒ガスの部屋が最後の関門だったようで、それ以降は敵の姿も見当たらない。しばらくは、ひたすら上り坂が続く。
「坂道ですけど……バンさん。大丈夫ですか?」
「ああ、行ける行ける」
逆立ち移動の速度から察するに問題はないのだろうが、念のために俺は辛くないのかとバンさんに聞いてみた。歩行に関してはなんのそのらしいが、両手で立っているバンさんと会話をするたび、下の方から声がするのが未だに俺は慣れない……。
「バンさん。坂道、終わります」
「そうか。よかった」
ずっと続いていた坂道が終わり、白い壁が光るサイバーな感じの通路へと移り変わる。この先にクロルがいるのだろうか。そう考えながら走っていると、俺たちの進んでいる通路の左の壁が透明なガラスへと変わった。
「……?」
ガラスの向こうには広い部屋があるようで、暗い中に何かがぼんやり光っている。俺が立ち止まったと同時に、ガラスの向こうにある部屋では緑色のまばゆい光が広がった。
「お……おおっ!」
光線はガラスに吸収され、収束したのちに俺たちのいる通路へと貫通してくる。攻撃か!俺が驚きの声を発している内、ミオさんが俺の前に出て小さい盾のようなもので光線を受けてくれた。だが、攻撃の勢いを殺しきれず、俺とミオさんは通路の壁へと叩きつけられた。
「……ミオさん!」
「……あ、はい」
次の光線が来る!すぐに俺はミオさんの手を引いて逃げ出す。走っている最中、俺はガラスの向こうを見つめる。部屋の上の方、大きなカプセルのようなものの中にいる……あれは、ルルルだ!緑色の光線を発射しているのは、サソリのような形のメカに見える。そこまで目視を終えたところで、再び緑色の光線が飛んでくる。
「あそこまで走れ!」
ガラスの壁は通路の先で終わっている。バンさんに言われ、俺たちは安全地帯を目指した。今度は俺がバリアをはり、その隙に皆は転がり込むようにして白い壁へと身を隠す。
「……ッ!」
1発だけ、バリアが光線を弾いた。なんとか全員、無事に金属製の壁へと隠れたものの、バリア発生装置のボタンを押しても、もうバリアは展開されない。これは……壊してしまったな。
「ゼロさん……すみません。壊しました」
「仕方がない。しかし、精霊様の元まで辿り着いたな」
「ですね……ミオさんも、ありがとうございました」
「いえ。でも、私の防具も壊れたんで……もう、あれは防御できないっす」
ゼロさんにもルルルの姿が見えたらしい。しかし、その居場所は広そうな部屋の上の方であり、カプセルのようなものに閉じ込められていた。緑色の光線を発射しているサソリ型のメカは、きっと精霊のレーレさんが入れられているものだろう。カリーナさんやアマラさんがいない今、レーレさんを助け出す術は俺たちにはない。
「ルルちゃんを助けるにしても、あの光線が厄介っすね」
ミオさんが言う。確かに……光線を防ぐ方法は、もう俺たちにはない。また、光線を発射しているメカとは別に、クロルが待機しているであろうことも想像に容易い。まずはクロルを見つけ出して、そちらをなんとかするべきか。でも、ルルルを人質に取られていては、こちらとしても戦いづらい。そこで俺は、レーレさんの動きを封じつつ、手早くルルルを助ける手段を考え始めた。
「……あっ」
作戦が上手くいくかは解らないし、この先にある部屋の状況も詳しくは頭に入っていない。俺はマップで部屋の広さなどを確認しつつも、なるべく可能性の高そうな打開案を1つだけ練りだした。俺たちを急かすようにして、天井の穴からクロルの声が聞こえてくる。
『あれ?勇者君、来ないの?それとも、死んじゃった?』
「……みなさん。ちょっとお願いなんですが、いいですか?」
俺は短めに作戦を伝え、通路の先にある扉を見つめた。そして、みんなと目でコンタクトを取った後、分厚そうな鉄の扉へと手をかけた。
「俺が1人で行きます。よろしくお願いします」
第92話の3へ続く






