第91話の2『安全保障』
外で戦っているアマラさんの体力が危ういので時間はないのだが、事情が解らなくては行動しようもないだろう。俺は『かくかくしかじか』で、手みじかに仙人へと報告を済ませる。
「実は、かくかくしかじかでして……」
「なに!山の外にいたのは、霊界神様なのか?」
山へと入ってくるにあたって、仙人も金属の竜の姿は見たようである。むしろ、あれが上にいる状態で、仙人が精霊山の中に入って来られたのが意外である。
「まあ。わしも事前に、山の近くがヤバいとは聞いていたのでな。中へ入るチャンスを探していた。したら、防衛隊の青年がアレ……アレ様と戦いを始めてな。その隙に、開いた山の穴から入ってこられた」
アレが霊界神様だと解り『様』をつけたのだろうが、あまり敬っている感じがしないのはアレ呼びだからであろう。コントロールされた霊界神様をアマラさんが引き受けてくれたから、その隙に俺たちがいた部屋から内部へ潜入できたらしい。
「勇者さん。そろそろ、行った方がいいんじゃないっすか?」
「そうですね……」
ミオさんに先を急ごうと勧められる。確かに、ゆっくり話している時間はない。仙人には悪いが、ここはライオンのメカを任せてクロルの元へ向かおう。そう考えなおして、俺が壁際にある階段へ足を進めたところ、今度はゼロさんがミオさんを呼び止めた。
「ミオ」
「……はいっす」
「先程の精霊様。貸してほしい」
アマラさんに渡された精霊様らしき結晶をバッグから取り出し、それをミオさんはゼロさんに手渡す。結晶の曇った輝きを少し見つめてから、今度はゼロさんがカリーナさんに受け渡した。もちろんカリーナさんは疑問の表情なので、その意図をゼロさんが説明する。
「元の姿に戻ると言っていた。おそらく、近いうちに戻るだろう」
「あらあら」
「精霊様ならば、魔法が使える」
……ああ、そういう事か。元の姿に戻った赤色の精霊様なら、メカから取り出した精霊様の魔力を制御できるのかもしれない。となれば……ここにカリーナさんも残ってもらわないといけない。まあ、動けない状態の仙人をここに1人で残すのも、危険と言えば危険である。俺からもカリーナさんにお願いする。
「カリーナさん……お願いできますか?」
「お姉ちゃんはいいのだけれど、じゃあ四天王……お願いできますか?」
「ま……任せてください」
「あら……声が小さいわ。大丈夫?」
「任せてください!」
正直に言えば、ここで仙人とカリーナさんと別行動をするのは戦力的に痛い。でも、メカの中に閉じ込められた精霊様の疲弊具合も解らない以上、救出できる人が近くにいた方がいいかもしれない。俺はカリーナさんにカラ元気を見せつけると、ゼロさんやバンさん、ミオさんと一緒に上の階へと向かった。
「そういえば、ゼロさん。足は大丈夫ですか?」
「問題ない。少し魔法で癒した」
「勇者さん!あの!僕のことでお話があるのですが!?」
「な……なんですか?」
壁際にそって上へと続いている階段をのぼっている最中、後ろにいるカルマさんから唐突に声をかけられた。なにやら不穏なのだが、そのまま足を止めずに話を聞く。
「勇者さん。ご相談です。僕、どこにいたら一番、安全だと思いますか!?」
「え……一番、強いと思う人の近くにいたらいんじゃないですか?」
「僕、空を飛びながら竜と戦うのは無理です!」
「その選択肢は思いつきもしませんでした……」
一番、強そうなのはアマラさんなのだろうが、その近くにいるのは今に限っては危険である。そして、次の強い人の候補を探した末、カルマさんは俺の横を走りがら手を差し出した。
「手、繋いでもいいですか?」
「なんで俺なんですか……いやですよ」
勇者補正で俺が選ばれた感は否めないが、カルマさんの恐怖心を俺が掴み取るのは拒否させていただいた。カルマさんは俺に断られたので、強そうな人の順で次にバンさんへとお願いする。
「上司の人、お願いします!僕、怖くてご飯も喉を通りそうにないんです!手を繋いで!」
「えー、やだ~」
「じゃあ、そこの無口な人でいいや。強そうなので、手を繋いでください」
「解った」
「俺、つなぎます」
「なんなんですか。仕方ないですね……お願いします」
ゼロさんとカルマさんが手をつなぐのは許容できず、結局は俺がカルマさんの手をとって、みんなの後方を走る結果となった。その一連の会話を聞き終えて、ミオさんが俺の方を振り向いた。
「……あれ?私は?」
「え……ミオさん。カルマさんと手、繋ぎたいんですか?」
「あ。繋ぎたくは全然ないっすけど……なにか、気に食わない感じ凄いっす……」
言われてみると……確かに。
第91話の3へ続く






