第90話の6『頭の話はするな』
通路を先へ進んでいくと、広くて薄暗い部屋へと出た。天井が高く、あちらこちらには何か大きなものがぶらさげてある。部屋の上の方に光り輝く何かがあり、目を凝らしてみると黄色く光るライオンの姿が見えた。同時にカリーナさんの姿も発見できる。
「カリーナさん!無事か!」
バンさんが声をかけてみるが、交戦中につき忙しいのかカリーナさんからの返事はなく、金属のぶつかりあう音と火花がチラついている。天井からぶらさがっているものは鳥かごらしき形をしていて、中に何か閉じ込められているようである。カリーナさんは鳥かごの上を乗り継ぎながら、飛び掛かってくるライオンのメカを武器で弾く。
「あそこ、横に階段があるっすよ!」
「よし!助けに行くぞ!」
部屋の壁づたいについている階段をミオさんが発見し、ミオさんとバンさんはカリーナさんの加勢に行こうと足をかけた。ゼロさんも敵の攻撃にそなえて俺の背中から降りる。その直後、ガシャンガシャンと鳥かごの開く音がして、大勢の魔物たちが次々と中から飛び出してきた。
「イキモノ!喰らう!」
「腹、減った!」
「ひいいいいぃぃぃぃぃ!勇者さん、僕を助けて!」
カルマさんに助けを求められるが、俺たち獲物に対して敵の数が多すぎる。ゼロさんが俺に小型のバリア発生装置を手渡し、俺とカルマさんを守る形で魔物たちの前に立った。バンさんが魔物の群れに爆薬を投げ込んだらしく、少し離れた場所では吹き飛ばされた魔物たちが飛び交っている。
「これじゃ、カリーナさんのとこまで行けないっす……」
戻ってきたミオさんとゼロさんが付近の敵を片付けており、遅れてバンさんも俺たちの近くへと戻る形で身を引いた。カリーナさんは……ライオンのメカが下に来ないよう耐えてくれているが、メカが動き回っているせいで弱点を見つけられないらしく、倒すことも助け出すこともできずに防戦している。
いや……待てよ。さっき精霊様を助け出した時、すぐにアマラさんが精霊様の魔力を結晶に変えてくれた。でも、今は魔法を使える人がいない訳で……精霊様をライオンのメカから助け出しても、その状態を維持する方法がないのかもしれない。となると、カリーナさん1人でライオンのメカをなんとかするのは不可能だ。
「勇者!上!」
「え……」
俺の考え事をさえぎるようにして、ドガンと部屋全体が揺れる。ゼロさんの声を受けて、俺は視線を上げた。きっとアマラさんと霊界神様の戦いに伴い、流れ弾が山に当たったのだろう。上にぶらさがっていた鳥かごの幾つかが外れ、俺達へ目掛けて勢いよく落下してきた。
「みんな!バリアはります!」
すぐに俺は皆の元へと走り、バリア発生装置のスイッチを押す。鳥かごは非常に大きく、かなり重さもあると見られる。バリアで耐えられるか?俺が息をのむ。すると、落下途中の鳥かごと何かが衝突し、そのまま鳥かごは壁へと叩きつけられてバラバラになった。なんだ?
「お待たせした。勇者よ」
「……?」
鳥かごを攻撃して打ち飛ばした人影が、俺の前に立って周囲の魔物を威圧する。グロウか?でも、声が違う。この声は聞いた事がある。俺は、目の前の人物の姿を見つめた。
「……」
その人物は全身が毛むくじゃらで、身長はバンさんと同じくらいだろうか。全体像は人型だが、ズボンからは尻尾がはみ出していて、何も着ていない上半身には灰色の毛並みが光っている。いわゆる、獣人といった風貌だ。敵ではないようだが、誰なのだろうか……。
「……あ」
目の前の人物の頭には犬のような耳がついていて、その頭頂部……頭頂部だけが……なんか、無残にも禿げあがってしまっている。それを見て、俺は目の前の人物の正体に勘付いた。
「その頭……まさか、仙人ですか!?」
「勇者よ……頭の話はやめるのだ。へこむ」
第91話へ続く






