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第90話の4『霊界神の依り代』

 『女!お前、何をした!』

 

 機能停止した鳥のメカを指さし、四天王のクロルが画面越しにカリーナさんへ向けて叫ぶ。一方、カリーナさんはといえば、特に変わった事はしていないといった素振りで、画面にピースサインを送っていた。一方、アマラさんは捕まえた赤い光を握り、それを赤い宝石へと変えてミオさんに手渡す。


 「さらわれた精霊様の1人だ。いずれ、元の姿に戻る。頼んだよ」

 「あ……はいっす!」


 鳥の形をしたメカは動かなくなっている。アマラさんの持っていた光の正体は、メカの中から取り出した精霊様なのだという。どうやって精霊様だけ取り出したのか、それはクロルにも解らないらしく、悔しそうにクロルはガラス板の中で映像を揺らしている。本当に何をどうしたのだろうか。今度は俺がアマラさんに尋ねた。


 「えっと……どうやって、精霊様を助けたんですか?」

 「私には理解できないが、カリーナ君ができるというからね。勇者君が時間をかせいでくれたおかげで、ゆっくり観察できたよ」

 「お姉ちゃんは刃物の先で、ちょっと出入り口を広げてあげただけですよ」

 『ああ……まあ、入れたからね。どこかに穴はあるわな』


 ゼロさんの通信機を介して、博士が簡潔な説明をくれた。精霊様とメカは元々は別の存在な訳で、合体させたとすれば入れた穴などがあってもおかしくはないのだろう。だが……その説明を聞いても尚、クロルは口を開けたまま考え込んでいた。


 『わ……私は、そんな欠陥を残して作った覚えはない!天才の私を差し置いて、知らない話をするなぁぁぁぁぁ!』

 「カリーナ君。あちらの精霊様も救出できるかな?」

 「形状が異なりますので、まだ出入り口の場所を把握しておりませんわ……」

 『そうはさせん!逃げろ!精霊の依り代ォ!』


 メカは依り代と呼ばれているらしい。それに向けてクロルが指示を出すと、黄色い光を放っているライオンのメカは軽快な動きで逃走を始めた。アマラさん達が登場したのと同じ穴へと飛び込み、それをカリーナさんが追いかけていく。


 「よし!俺たちも行こう!」

 『おおっと!お前たちは、こいつと遊んでもらうとしようねぇ!』


 バンさんを先頭にして、俺たちも壁の穴へと向かって走り出す……のだが、クロルの呼び止める声と同時に部屋の電気が全て消える。そして、部屋の奥の壁がシャッターのようにガラガラと引き上げられた。外の光が差し込む。まぶしさを受けて俺たちが動けずにいる中、引き上げられた壁の向こうには、うっすらと荒野や森、山などが見えてきた。外だ。


 「……?」


 空には既に太陽が昇っているのか、ものすごい光が精霊山に降り注いでいる。でも、確か……山の上には黒い雲が渦巻いていて、太陽は隠れていたはずだ。そんなことを考えている内にも、上空から眩い光の大本が降臨し、俺たちの前に顔をのぞかせた。クロルが自信満々といった声色で、それの正体を明かしていく。


 『くくく……やっと制御に成功したのだ。天才は、ついに神の力を手に入れた!』

 「が……ぎゃあああああああああああぁぁぁ!」


 白く輝く竜の形のメカが、巨大な口から絶叫にも似た声を放つ。その一声だけで空気が激しく振動を始め、俺は体に痛みが走るのを感じた。竜は口の中にドロドロとした魔力のカタマリをため込んでいて、それを俺たちへぶつけようと向けている。


 『いいぞ!霊界神の依り代よ!やつらを始末しろ!』


 クロルの声が響くと同時に、竜のメカの表面には黒い光が走った。霊界神の依り代……ってことは、あの中に霊界神様がいるのか?竜の口の中にある魔力のカタマリはギラギラと輝き、その揺らぎは見ているだけで肌がピリピリと痺れる程だ。一度だけ頭を大きく引き、竜のメカは口にため込んだ光の玉を俺たちに向けて発射した。


 「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「……ッ!」


 竜のメカが叫び声をあげる。放たれた光の玉は俺たちのいる部屋を崩壊させ、俺たちは光に包まれたまま身動きも取れずにいる。だが、不思議と体に痛みはなく、数秒で光は俺たちを通り抜けていった。


 「あ……アマラさん!」


 俺たちの目の前にはバリアをはったアマラさんが立っていて、その服には焼けた痕と、したたりおちる血が目立つ。俺たちの背後は完全に貫かれており、まるで山の真ん中にトンネルがあいたようになっていた。


 俺がアマラさんの名前を呼んでみるもが、俺たちをかばった際のダメージが大きいせいで、こちらを振り向く余裕もないようである。そんなアマラさんをかばう形で、今度はバンさんが前に出た。


 「……大丈夫か?アマラさん!」

 「いや……さすがに、きついな」

 『……なんだぁ?お前は?お前みたいなのが勇者一味にいるなんて、このクロルの耳には入っていないけど?』


 竜のメカの一撃を防がれたのが不愉快だったのか、ガラス板に映っているクロルは険しい目つきでアマラさんを見つめている。だが、すぐに良い事を思いついたとばかり、表情を嬉しそうに一変させた。


 『そうだ。こいつを放って、ここら一帯の街も村も、全て焼け野原にしてやろう。したら、お前たちが俺を倒せたとしても、その頃には手遅れだねー』

 「……!?」

 『行け!霊界神の依り代!神の雷を人間どもに落とすのだ!』

 

 画面に映っているクロルが、手元で何か操作するのが見える。それを受けて、竜のメカは体をひるがえし始めた。すかさず、その金属のウロコへ目掛けて、アマラさんが手元のハンマーから衝撃波を放った。アマラさんの攻撃を受けて、竜のメカが俺たちの方へと視線を戻す。


 「ここは、私が止める。さすがに、街の皆を守りながら戦うのは、姫様といえども酷だ」

 

 そう言うと、アマラさんはスノーボードのようなものを背中から降ろし、その上に両足で立って浮かび上がる。アマラさんが強いのは何となく想像できるが、相手は改造されているとはいえ神様だ。勝ち目はあるのだろうか。俺は大声でアマラさんに尋ねた。


 「あれ。か……勝てそうですか!?」

 「……無理」


 無理なんだ……それを知っていても、やっぱり戦いには行くのだろう。アマラさんの返答を聞いて、今度はバンさんが意図をくみとったように続けた。


 「だが、死ぬ気もないんですよね?」

 「ああ、そうだね」


 アマラさんの持つハンマーは魔力を込めると、とてつもない大きさへと膨張を始めた。足を乗せている板をジェットの如く発進させつつ、アマラさんは俺たちへと振り返る。


 「勇者君!バン大佐!みんな!すまないが、四天王は任せる」

 「……は……はいッ!」

 「頼んだよ」


 そう俺たちに伝え、そして……あと一言だけを残して、アマラさんは巨大な敵へと向かって飛び出した。


 「ぜひ、私が死ぬ前にお願い!」

 

                                 第90話の5へ続く

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