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第90話の3『ヒーローは遅れて』

 「勇者さん。あの中に精霊ちゃんがいるのか?」

 「いるとしたら困りますね……」

 「となると、ケガをさせるのもなぁ」


 精霊を魔力化して、メカと同化させている……そうクロルは言っていた。バンさんの言う通り、下手に傷をつけたら取り返しのつかない事になる。だからといって、ケガをさせずに取り押さえられるほど、大人しい相手ではない。実際問題、ゼロさんが魔力を全力にしたとしても、絶対に倒せるとは限らない相手である。


 「……わかりました。俺、行きます」

 「勇者……どうした?」


 俺はゼロさんの後ろから出ると、小さい歩幅で敵のメカへと近づいていく。あの中にルルルが閉じ込められているとすれば、呼びかけ次第では何か反応があるかもしれない。ここまでの旅、ルルルとの思い出を振り返りながら、俺は一歩ずつ前に出ていく。


 「ルルル。俺、ルルルのことは最初、生意気な子どもだと思っていたよ。でも、違ったよな。ルルルは、かわいい生意気な子どもだったよ。なあ、俺だよ?解る?」

 「……」

 

 どっちのメカにルルルが入っているのか解らないから、アバウトに大きな声で思いを伝えている。相手方も戸惑っているのか、攻撃するのをためらうようにして、俺と距離をとって構えている。


 「ルルル。時にもケンカもしたけれど、それを乗り越えて仲良くなったじゃないか。ほら、これ。ルルルが修理に出してくれた服さ。イカすだろ?俺だよ。解るだろう?」

 「……ぐるるる」


 ライオンの形をしたメカがうなりを上げ、ちょっとばかり苦しそうにしている。もしかして、効いてる?ゆっくりと足を前に進めつつ、さらに俺は話を掘り下げた。


 「……ルルル。俺、ルルルには何度も助けてもらったさ。なあ、優しいルルル。おかしと、お肉ばかり食べていて、野菜を食べないルルル。よく食べるルルルが俺は大好きだったさ。海でも水着については話題として触れなかったけど、やっぱり水着姿も可愛いと思ったね。くびれがなくても最高さ。やっぱり、ルルルは俺の妹だよ。俺だよ。解ったかな?」

 「……ぐ……ぐぐ……ぐ」

 「……?」

 「ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 突然、ライオンのメカは強い吠え声を放ち、同時に衝撃波と岩の破片を放った。何か怒らせることでも言ってしまったかと悔やみつつ、なんとか俺は攻撃から逃げ延びてバンさんたちの後ろに飛び込んだ。


 「だ……ダメでした」

 「勇者さん。水着のあたりから、ちょっと気持ち悪かったです」

 

 カルマさんにダメだしされた……くびれのくだりがいけなかったというのか。などと勝手に後悔し始めたところで、クロルが咳払いしつつ俺に呼び掛けてくる。


 『ごほん……小僧。お前の言うルルルというのは、こいつのことか?』

 

 クロルの顔を映していたカメラが上に向き、はりつけにされて気絶している女の子の姿が、ガラス板の中に浮かび上がった。泉の呪いで着させられた魔法少女服からは戻っているようだが、あの顔……あの服……俺がプレゼントした髪留め。ルルルに違いない。


 クロルの映っている画面の中に、ルルルもいる。とすれば、この場所にルルルはいないことになる。それが解ったと同時、俺はルルルじゃない人達にルルルとの思い出を語っていた事実にも気づいた……ものすごく恥ずかしい。違うなら違うで、もっと早く言ってほしかった……。


 『バカめが!天才・科学者のクロルは、山の頂上付近にいる!一目、君たちのバカ面をじかに見たいものだ!』

 

 クロルの居場所は頂上付近らしい。つまり、俺たちにはキメラやメカをけしかけて、自分は高みの見物って訳だ。メカの中にいるのがルルルじゃないと解ったところで、他の精霊さん達にだって攻撃をぶつけにくいのは同じだ。クロルの高笑いが響く。


 『ハハハッ!どうするかね!?』

 「みなさん!に……逃げましょうよ!ぜひ!」

 「ど……どこから?」


 カルマさんに逃走を提案されるも、部屋から出られる場所は……メカたちが飛び出してきた壁の穴か、俺たちが流されてきた水浸しの横穴くらいだ。しかし、俺たちが流されてきた方は、まだ水が溢れ続けていて出るには厳しい。


 メカが出てきた穴は壁の高いところにあり、よじのぼろうにも届かない。そうして俺が壁の穴を見ていると、そこから光るものが飛び出してくるのを見つけた。


 「……?」

 「ガッ……ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」

 『なにごとだッ!』


 赤い光をまとった鳥のメカ、その近くを大きな刃物がかすめる。鳥のメカの中は絶叫のような大声を上げ、ギラギラと光らせていた目を閉じた。クロルも何が起きたのか解らないとばかり、疑問の表情を画面に近づけている。メカの中から赤い光の玉が飛び出し、それを穴から出てきた別の誰かが手に乗せる。


 「みんな……やっと会えたね」

 「ア……アマラさん!カリーナさん!無事でしたか!」


 斬りつけたのはカリーナさんで、光の玉をキャッチしたのはアマラさんだ。あれ……じゃあ、ミオさんは?


 「あ……私、ここっす」


 出遅れたとばかり、ミオさんも壁の穴から飛び降りてきた。よかった。みんな無事で……いや、あれ……グロウは?

 

 「あ……グロウさん、勝手にどっか行っちゃっていなくなったっす……」

 

 グロウのやつ、すでに皆さんにご迷惑をおかけしていた……いや、申し訳ない。


                                第90話の4へ続く


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