第90話の1『ご対面』
【 前回までのあらすじ 】
俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。ルルルを助け出すべく四天王クロルの待つ精霊山へ侵入し、石像にされた魔物に情熱的に追いかけられた末、敵の自爆の余波を受けて水に流された。
「……ごほっ!がはっ!」
俺は急激な水流に飲み込まれるも、珍しく気絶せずに空気のある場所まで耐えのびた。体に入った水をなんとか吐き出し、身の周りに目をやる。どこか暗い場所に流れ着いたようだが、なんだか顔の近くで良い匂いがするし、柔らかい感触も体に伝わっている。バンさんの生存確認コールが響き、それに俺はガラガラの声で応じた。
「みんな!生きてるか!?」
「なんとか……」
「勇者。無事か。よかった」
暗くて見えないが、なぜかゼロさんの声が俺の真上から聞こえる……ってことは今、俺はゼロさんの脇に抱えられている状態なのか。当たっている柔らかいものの正体も判明したところで、俺は降ろしてもらって硬い床の上に自分の足で立った。床には水が溜まっているらしく、足を動かすとザバザバと波が立つ。
「こここ……ここどこどこここですかぁ!?地獄ですか!?僕、天国の方がいい……!」
「カルマ隊員。落ち着け。まだ俺たちは生きてる」
生きているか心配だったカルマさんからも報告が届く。バンさんがカルマさんをなだめている中、俺もポケットにキメラのツーさんが入っているかと心配になり、指で触って様子を確かめた。ツーさんも濡れてはいるが、動きが指に伝わってくるから問題はないと思われる。全員いることが解ったところで、俺は一歩だけ足を前に出してみた。今度は硬いものが俺のクツ先に当たり、つい驚きの声が出てしまう。
「……おわっ!なんだ!?」
暗闇の中にキラキラと光の粒子が発されており、なんだかキレイなようで割と不気味だ。ゼロさんが腕の装備から懐中電灯のような光線を出してくれて、やっと足元の物体の顔が見えた。バンさんはしゃがみこみ、床に倒れている魔物を観察する。
「……さっきのやつらみたいだな」
「クロルに爆破されて石化解除とは、これはこれで悲しい最期ですね……」
土壇場で力を発揮したものの、上司に許してもらえず爆破されてしまった、可哀そうな魔物の末路である。まあ、この2体の魔物も、いずれは別の場所でマユになって復活するのだろう。その際は怠け心を改めて、勇者抹殺に励んでいただきたいと……いや、そこは頑張ってもらわなくてもいいかもしれない。
しかし……この場所はどこなのだろう。精霊山内部のマップを見たところ、中腹より少し下くらいまでは登ってきているようである。俺が灯り代わりにと赤のオーブを取り出したところ、真っ白なライトの光が部屋の隅々まで行きわたった。
『よぉこそ!勇者諸君!』
四天王クロルの声が雑音を交えて聞こえ、広い部屋の内装が眩い光の中に見えてきた。そこは紫色の壁にキラキラのライト、回るミラーボールといった感じのディスコみたいな部屋で、広さは体育館くらいもある。大きなガラス板が部屋の奥にスライドして現われ、その画面の中にやせこけた色白の男の顔が映った。バンさんがカルマさんを背中から降ろしながら、強い声色で画面の男へと尋ねる。
「お前がクロルか!」
『クロルだよ?ああ、そうだ!世界に一人、天才科学者!』
「ああ、そう。さらわれた精霊ちゃん、返してもらうぞ」
バンさんの興味なさそうな返事が癪に障ったのか、クロルは見るからに不満な様子で眉をよせた。今度はゼロさんの持っているガラス板を通して、博士がクロルへと呼びかけを行う。
『クロル!やはり、四天王のクロルは、あなただったか!』
『モルアーめ……なれなれしい。私の名を呼ぶな!』
この2人に関しても、やはり顔見知りで間違いないようである。クロルの方が歳は随分と若く見えるが、会話している限りでは同僚か、もしくはクロルの方が年上といった感じである。酷く腹を立てた表情を見せた後、クロルは画面を切り替えてVTRを写し出す。そこには大きな姿のキメラのツーさんと、燃え盛るカリスの姿があった。さっきの戦いの録画映像だろう。
『俺の作った作品と、お前の作った黒いゴミ。まずは一戦、引き分けだ。どちらも散ったからなー!あれは引き分け!』
『ツーはゴミではないぞ。勇者を助けた。れっきとした仲間だよ』
『うるさい!次は、そうはいかない!決着をつけてやる!』
部屋の中に大音量で音楽が流れ始め、それにあわせて壁に大きな穴が広がった。その中からメカのようなものが、1体……2体……次々と飛び出してくる。鳥のような形……ゴーレムのような形……1つ1つ形状は違うが、それぞれトラックくらいの大きさはある。
『さあ、第2ラウンドといこう。これから死にゆく勇者諸君』
第90話の2へ続く






