第89話の6『なまけものの本気』
石像が追いかけてくる!それも、がむしゃらに剣を振り回しており、追いつかれたら八つ裂きにされるのは想像に容易だ!なんとか足止めできないか……俺はバンさんやゼロさんと一緒に逃げながらも、通路の先に置いてある物を見つめた。
「あれだ!」
俺は通路脇の台に乗っていた高そうなツボを中央に置き、石像の妨げとなるよう仕掛けた。ツボは装飾も多くて高価そうなので、割ったら怒られて必至である。この高そうなツボを押しのけて来れるものなら来てみろ!俺は逃げながらも石像の動向を見守った。
「同志よ!つぼだ!」
「構わん!突撃!」
やつら、高そうなツボをものともせず、ガシャガシャと割りながら俺たちを追いかけてきた!すかさず、石像の内部からクロルの叱りつける声が響く。
『お前ら!私のお気にのツボを割ったな!勇者もろとも爆破してやろうか!』
「くう!クロル様に怒られた!勇者め!許さぬ!」
割ったのは石像のはずだが、これは俺が悪いのか?ツボを割った責任の所在に頭を悩ませてしまうが、そんなことを考えている場合ではない!このままでは石像もろとも爆破される!俺が爆発から逃れる術に悩んでいると、先を走っていたバンさんが俺を呼んだ。
「ここから先、水が溜まってるぞ!」
「えええ!?」
俺が通路だと思っていた道は途中から水に沈んでいて、もぐらなければ先に進めない。さすがに迂闊に水へ入るのは危険とみて、バンさんが石像の生身の部分を狙って銃弾を打ち出す。
「くらえ!」
着弾と同時に炎が上がり、クロルが爆破するより先に石像は爆風に巻き込まれた。全身石像だった時は攻撃が通らなかったが、今回はどうだろうか。俺は期待を込めて観察していたのだが、敵の姿が見えてくるより先に、バンさんが攻撃失敗のフラグっぽいセリフを発した。
「……やったかッ!」
爆風が去り、黒煙が晴れていく。そこには生身の手足を石像へとひっこめ、攻撃を防いだ石像の姿があった。すぐさま立ち上がり、石像は再び爆走を開始する。
『やつらをやれ!さもなくば爆破だ!』
「ひええええ……」
クロルに脅され、石像が俺たちを殺そうと剣を振り回しながら迫る。こちらの攻撃は効かない!幸い、水に潜れば先に通路は続いている!俺は水の中へ進むようバンさんたちに伝えた。
「この先、少しもぐれば出られます!行きましょう!」
「解った。カルマ隊員!水を飲むなよ!」
気絶しているカルマさんにバンさんは注意するも、カルマさんは気絶しているので聞く耳を持たない。水中ならば石像が爆発しても、威力を軽減できる可能性はある。それに、さすがに石化された体じゃあ泳げないだろう。俺たちは水の中にもぐりこみ、薄暗闇の中で背後に注意を向けた。
「……ま……て……ゴボボボボ!」
石像が、力をあわせて泳いでる!?石なのに!あいつら、サボったりしてても、やればできるやつらだったんだな……などと、敵とはいえ俺も感心してしまった。
「勇者!上だ!」
「……バンさん!上!上に出ます!」
「……ッ!」
まだマリナ姫の魔法が残っているのか、俺とゼロさんは水中で呼吸も出来たし、声を出すこともできた。俺達が発声できた事実にバンさんは驚いているようだったが、すぐに上部の光が見える場所へと向けて泳ぎ出した。さすがの石像も真上に泳ぐだけの気力はないようで、重さに負けて下へ下へと沈んでいく。
「あ……だめだです……ゴボボボボボ!」
「しずむ致し方なし……ゴボボボボボ……」
『ええい!使えないやつらめ!』
助かった!俺が水から手を出そうと腕を伸ばした……その瞬間、ものすごい勢いで水が揺れた!
『爆破!』
「ああああああ……クロル様!」
「ごめんなさいッ!」
石像の魔物が爆発を起こし、水の揺れに流されて俺は壁に頭をぶつけた。その後、水の流れる音が聞こえ始めた。体が下へと引っ張られる!
「爆発で壁に穴が開いた!流されるぞ!」
ゼロさんの声が聞こえるのが先か、水に流されるのが先か、穴の開いた場所を目掛けて、俺たちは排水さながら引き込まれていく!しまった!
「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
第90話へ続く






