第89話の4『罠っぽい罠』
仲間に負担をかけまいと考えて行動した結果、キメラのツーさんに守ってもらう事態となってしまった。今後は、このようなことにならないよう、慎重かつ注意しながら先に進もうと心に決めた。カリスの妨害がなくなったところで、俺たちは入り組んだ通路からの脱出に臨む。
「さっき、俺がいなくなった場所の近くにハシゴがあったと思うんですが、それを登れば迷路を脱出できるかと」
「そうか。それと、勇者さんは、なんで急にいなくなったんだっけ?」
「曲がり角の先で、落とし穴に落とされまして……」
バンさんに聞かれて、そういえば俺がいなくなった理由を話していなかったのに気づいた。3秒前まで目の前にいた人が、急にいなくなったらビックリもするだろう。たぶん、ツーさんやカリスの叫び声を頼りにして、バンさんたちは俺の居場所を探してくれたのだと思われる。
「申し訳ないです。肝心なところで爪があまくて……」
「いや、また俺はてっきり、勇者の持つ特殊能力で消えたのかと思ったさ」
その能力は確かに欲しいが……ルルルの特技と少し被るので、今後も俺の能力としては覚醒しないような気がする。そんなルルルは今頃、クロルに何をされているとも解らない訳で、あまりのんびりもしていられない。そうと決まれば、俺は2人と一緒に迷路の出口へと駆けだした。
まぶたの裏のマップをのぞいたところ、ミオさんの居場所が少し変わっているのに気づいた。アマラさんなら魔力探知はできるのだろうが、俺たちは魔力を持っていない人間だけだし、ツーさんの魔力の雰囲気は記憶していないようだから、他に探す頼りがないのだろうと考えられた。
「このハシゴか?」
「はい」
カリスの罠にハマった場所まで戻り、壁際にかけられた鉄製のハシゴを見つける。バンさんはカルマさんをロープで体に縛り付けて、リュックのように背負ったままハシゴを登る。上の階に魔物の軍勢がいないか見に行ってくれる。
「……何かいるような……そうでもないような」
「何人だ?」
「ええっと……2つか、もしくは2人だな。2体なのは確かだ」
ゼロさんの問いかけを受けて、バンさんはハシゴから登った先の通路を再確認している。ハシゴの上の通路に何かいるのは間違いないのだが、それは魔物かもしれないし、魔物じゃないかも解らない。今度はゼロさんがバンさんと入れ替わりでハシゴを登った。
「ゼロさん。どうですか?」
「いる」
「何がですか?」
「……石像?」
聞くところによれば、上の階には存在感バツグンの石像があって、それが敵なのか置物なのかが論点のようだ。俺も登ってみたのだが、俺の顔を見つけた瞬間にも騎士の石像は目を赤く光らせた。しかも、道を挟む形で石像は2つもある。あ……。
「あれは間違いない。敵ですね」
「でも、襲ってくる気配はないんだよなー」
バンさんの言う通り、石像は通路の両脇に鎮座していて、でも目を光らせるだけで俺の方へ歩いてくるわけでもない。危なそうな感じはするのだけども、ここを通るのがミオさんの居場所へ向かうには近道である。回避していこうとすれば、入り組んだ迷路を戻って、更に戻って、更に戻った辺りで別の道に入らないといけない。念の為、バンさんに相談を持ち掛けた。
「ガケがあった場所の近くまで戻れば、別のルートでミオさんたちがいそうな場所に行けるんですが……」
「そうなのか。それはそれで、別の敵に見つかると面倒だな」
「私が先に行く」
俺とバンさんが慎重に議論を重ねていると、ゼロさんが男らしく先に行くと宣言した。さすがに女の子を先に行かせるのは気が引けるので、諦めて俺が犠牲になろうと横入りする。
「ゼロさん。俺が逝きます……行きますよ」
「勇者さんがやられると、四天王に出くわしたら終わりだからな……俺が行く」
バンさんは軽快に登り、銃口をハシゴの上の通路に向けた。ボゥンと爆撃音がする。硝煙が消えたタイミングで顔をのぞかせ、石像の様子を確かめる。
「硬いな。ダメだ」
「壊れてないんですか?」
「見てくる。少し待っていてくれ」
バンさんの姿がハシゴの上に消え、しばらくして呼び声が聞こえてきた。
「あー。大丈夫だ。動かない」
近づいても石像は動かないらしい。それを知って、次にゼロさんが上の通路に上がっていく。
「こちら、異常なし」
ゼロさんからも同様に、問題がないとの報告を頂いた。俺もハシゴを登り、向かい合っている2体の石像を見つめる。その向こうにはバンさんやゼロさんが待っていて、襲われた形跡は全くない。でも、やっぱり石像は俺の方を見て目を赤く光らせている。なんか……なんだ。アレだな。これは。
「ちょっと心の準備、してもいいですか?」
「おお。別にいいぞ」
「勇者。急がなくてもいいぞ」
第89話の5へ続く






