第30話の2『釣りとか』
「いや、死ぬかと思った……凄いぞ。ヤチャ」
ヤチャが飛び乗った勢いで乗り物は急降下を始め、備え付けられていたパラシュートは空気の摩擦で消し飛んだ。このまま地面に叩きつけられて旅も終わりか……と観念した手前、ヤチャは落ちている途中の乗り物から身軽に飛び降り、乗り物を地面の間際でキャッチしたのだ。いわば、遠くへ投げ飛ばしたボールを自分で掴みにいくキャッチボールさながらの行為である。
「空から人が降ってきたぞ!村の者!かこめー!」
俺たちの乗った乗り物が落ちた場所は村の中央で、危うく民家に穴をあける着地座標であったがヤチャの機転で被害は免れた。ただ、そんな民家の危機は去ったものの、今度は俺たちが村の民衆に包囲されるというピンチに陥った……。
村人に囲まれてリンチの如く殺されるのではないかとすら思ったが、よく見ると村の人々は武器を持っていない。もしや、交渉の余地ありか?そう考えていた矢先、ルルルがいらないことを言いだした。
「これ、こう見えて勇者なんよ!殺すなんて、もったいない!」
「えええ?」
「やはり、天より来たりし勇者でしたか!おお、我々に救いの手を差し伸べてください!」
「いや、俺は……」
「毎日、村に魚人間が襲来するのです。大量の魚をよこさねば村人をいたぶると脅迫され、我々は日銭を稼ぐように漁へかり出る日々……勇者様、お助け下さい!」
俺が何か聞くより先に事件の概要を洗いざらい公開され、返答を待つように俺の方へと視線が集中する。こうなってしまえば、もう見捨てて逃げることもできない。よし……俺たちも協力しよう。
「お話は承りました。協力しましょう!魚捕り!」
元々、村人たちに俺たちを殺す気持ちは毛頭なかったらしく、わらをも掴む思いで正体の知れない俺たちに望みをかけてみた……らしい。その後、ここは危険だからと村を去るよう村長に言われたが、魚人間とやらが魔物であれば四天王の手掛かりが手に入るかもしれないし、みすみす見て見ぬふりをすることもできない。かといって、なるべくならばバトル展開も避けたい事情から、このような気弱な選択をしてしまったのである。
俺と仙人とルルルは海に面した岩場から釣り竿を伸ばし、たまに糸を揺らしてみたりしながら魚がかかるのを待っている。しかし、一向に釣れない……。
「勇者。釣れているか?」
「ええ。見事に釣れ……」
背中に誰かの声を受け、でたらめに竿を振りながら後ろを向く。その声はゼロさんのものだったのだが、体の部位が交換となったせいか、声も以前とは別人のものになっていて未だに慣れない。どう変わったかといえば、今まではベテラン感のあるお姉さん声だったのだが、今は流行りの人気声優っぽい声になった気がする。
そんなゼロさんは、いつの間にかウェットスーツにも似た服へと着替えており、手には魚を突くモリを握っている。彼女の服装は露出こそ少ないものの、スーツが体に引っ付いていて独特の色気があり、俺はセリフの途中で鼻血をとめなくてはいけなくなった……。
「研究所で試したのだが、水泳は可能だ。私が海に潜ろう」
「大丈夫ですか?無理はしないでください……う」
「私はいい。勇者も無理はするな……」
「俺様もいくぞおおぉぉぉ!」
ゼロさんを心配している俺の方が鼻血を出しており、どう考えても俺の方が心配される側である。軽やかに海へ飛び込んでいったゼロさんに続いて、意気揚々とヤチャも胴着のまま海に入っていった。
「あたちも海に入るんよ!」
『窒息するする!やめてちょうだいねぇ!』
「ちゃんと服を脱いで泳ぐんよ!この腕の気持ち悪いのも取るし!」
「やめておきなさい……」
ツーさんを腕から外したがったり、服を脱ぎたがるルルルを引き留めつつ、俺たちは素朴に釣りを楽しんだ。結果、釣りチームの成果は無し。ゼロさんが大きな魚を3匹。ヤチャは……なんやよく解らん、手足の生えた魚を締め上げて帰ってきた。
「テルヤァ!俺様が、一番だあぁぁ!」
「食べられるのかな……それ」
ヤチャの捕った魚を気味悪がりつつも手土産とし、俺たちは村に戻って村長に見せた。そうしたら、村長はヤチャの持っている魚を指さして甲高い声を出した。
「そ……それ!」
「……?」
「魚人間!」
「……えええ」
第30話の3に続く






