第88話の5『完走?』
変身する姿を間違えたカリスは俺の足元をくぐりぬけて逃げ出し、俺も咄嗟に捕まえようとするのだが、すばしっこくて逃げられてしまった。ネズミのような姿のカリスを追いかけ、俺たちは部屋を出て通路を進む。
「……あれ?どこいった?」
ついさっきまでカリスは目の前を走っていたのだが、ふとした拍子に見失ってしまった。俺とゼロさんに遅ればせ、カルマさんを担いだバンさんがやってくる。道の先は3方向に分かれており、どちらにカリスが進んだのかは解らない。俺は目をつむって、山の中のマップを目に浮かべる。
「えっと……この先は迷路のようになっていて、追いかけても探し出すのは難しそうですね」
「勇者さん。そこまで見えるのか……もう、目がいいって範疇の話じゃないぜ?」
「その代わりに俺、これくらいしかできないので……」
バンさんに驚かれつつも、俺は道の先が一目で把握できないくらい入り組んでいるのを伝えた。そこへ入っていくとなれば、よもや罠と解っていてハマりに行くようなものである。別のルートでミオさん達の元へと近づけないか俺が模索していると、わざわざ先の通路からカリスに呼ばれてしまったりもする。
「その先に、カリスはいるぞ!だから、追って来るがいい!」
「い……いやです」
「なん……だと?」
俺が嫌そうに答えると、全くもって意外とばかりに動揺の声を出していた。そりゃあ、そんな露骨に驚かれたら、待ち伏せしていると自分で言っているようなものである。絶対にカリスを追って進んではいけない。そう決めたのも束の間、後ろでゼロさんが叫んだ。
「勇者!ドロドロだ!」
「ん?」
俺は瞳を開いて後ろを見る。散々、俺たちを追い回してくれたドロドロの魔物たちが、通路を封鎖する程の体積で押し寄せてきている!これでは、戻って別の道を行く事も出来ない。ドロドロの魔物を撃退しようと、ゼロさんが腕の魔道具に力を込める。すると、魔道具は以前とは少し違う反応を見せ、熱を持ったように赤く光り始めた。
「ゼロさん……大丈夫なんですか?」
「少し無理をするだけだ。気にするな」
魔道具の最大出力ならばドロドロの魔物を吹き飛ばせるかも解らないが、すでに魔道具は歯車の軋むような音を立てている。バンさんも迎撃態勢はとっているが、いかんせん気を失っているカルマさんを守っているのがネックである。ここで負傷者が出ると、ずるずると悪い方向に引きずられそうだ。俺は先の通路を指さし、強行突破の姿勢をとった。
「俺、先頭を走ります。迷路地帯を一気に通過しましょう」
「勇者さん。行けそうなのか?」
「道は見えてますから大丈夫です」
バンさんと話をしながらも、俺はマップを見て1つ1つ、行き止まりのない経路を探していく。もう時間がない!俺はゼロさんに呼びかけ、カリスが待っているであろう入り組んだ通路へと駆けだした。
「ゼロさん!逃げます!」
「……了解」
「了解……その前に、こいつをくらえッ!」
右へと続く道を進む直前、バンさんがドロドロの魔物たちへと銃弾を撃ち込んだ。一瞬だけ火柱が上がり、ものすごい量の黒い煙が広がる。煙幕だ!バンさんに少し時間をかせいでもらい感謝しつつも、俺は冷静に頭を使いながら、スピードを落とさずに道を進んだ。
正面から敵が来る様子もない。角を左へと曲がり、登りの道を行く。そろそろ3分の1は進んだと見て、俺は再び片目を閉じ、まぶたの裏にマップを広げた。この入り組んだ通路を抜ければ、その先は山の中層辺りへと続く通路だ。その近くにミオさんの名前が見える。
ドロドロ達のうめき声は背後に聞こえているものの、そこまで近くにいるようには感じない。どこかでカリスも待ち伏せしていると思われるが、今のところは道をふさぐものや、襲い掛かってくるものは見つからない。この調子なら行ける!俺は少し後ろにゼロさんとバンさん、それとカルマさんがいるのを確かめつつ、俺の腕の入れ物に引っ付いているキメラのツーさんとも目をあわせた。
「あと少し!そこを曲がれば終わりです!」
マップの道筋が次第に解りやすくなり、1つ曲がった先にあるハシゴを登れば迷路からは脱出だ。俺は敵と出くわさないよう祈りながら、勢いよく左の道へと進んだ。ハシゴが見えた!敵もいない!そう安心した俺の足が、急に地面を踏み損ねた。
「あ……」
よく見ると、俺がいる近くだけ地面の色が少し違う。そこへ足を踏み入れた瞬間、大きな穴が足元に現われ、俺は地面の中へと落とされてしまった。まずい!罠だ!
「わああああああああぁぁぁぁぁ!」
第88話の6へ続く






