第87話の5『テロリスト勇者・時命照也』
「アマラさん!バンさん!唐突ですが、車が爆発します!」
「えぇ?なんで?」
バンさんに理由を聞かれはしたが、あまりにも車を爆発させる理由がなさすぎて答えられない。こんな狭い通路では外にも逃げられないし……いや、排水管に入ったって事は、ここは山の内部ということになるはずだ。俺は目をつむって、山の内部のマップを確認する。
「えっと……」
排水管は地下から山内部の1階あたりの高さまで続いており、排水管の途中には横へと入れる細い通路がある。このまま行けば、あと約15秒で左右に足場が見えてくる。俺は車から脱出するタイミングをみんなに伝えた。
「この先に、左右に飛び移れる通路があります!脱出しましょう!」
俺の言葉を受けて、乗車している各々が車の右と左の窓を開く。アマラさんはハンドルらしきものに魔力を込めて、車が自動で直進するようロックした様子だ。それを済ませた後、バンさんとアマラさんも客席へと移動して脱出に備えた。
「見えた!」
開いた窓からは緑色に光る汚水の飛沫が入ってくる。それに耐えつつ目を開きつつ、排水管の一部にある足場を見つけると、俺は指さしながら飛び移るようにうながした。なのだが、車の窓から飛び出して脱出などという洋画顔負けのアクションが俺にできるわけもなく、他の人たちが飛び移り終わった最後に、ゼロさんが俺を抱えて飛び出してくれた。
「あ……ありがとうございます」
キメラのツーさんを腕につけた俺とゼロさん、カルマさん、バンさんが左の足場へ飛び乗り、車から出た右側にある足場にはアマラさん、カリーナさん、ミオさんとグロウが飛び移った。どちらか一方からでは人数の都合で効率的に脱出できないと考えたからか、その場で判断して皆は左右の足場に別れたのだと思われる。
「ひいぃぃぃぃ!頭から着地した僕だ!」
カルマさんが顔面着地を成功させているが、それでも無事な体の丈夫さが羨ましい。俺たちが飛び降りた車は排水管の先へとスピードをおとさず走っていき、それから20秒ほどして白い光を放った。炎と光が渦巻くような大爆発が起こり、俺たちは爆風に取り込まれないよう近くの階段へと逃げ入った。
「うわっ!」
予想以上の爆発が排水溝の水の流れにそって戻り、背を焼かれそうな熱さに耐えながら階段を駆け上がる!精霊山が飛び上がるのではないかと思う程の威力の波動が消え、すでに俺たちの背後にある階段は瓦礫の山に埋もれている。しまった。チームが分断されてしまった。
「……ダメだな。完全に塞がれている。あちらも無事だといいんだが」
バンさんが瓦礫を叩いてみるが、階段をふさいでいる石や砂はどかせるレベルのものではない。このまま階段を上がって、どこか別の場所で合流できるのを願うばかりである。マップを確認してみるも……山内部の中腹あたりまでは爆発の被害を受けており、もはや行き止まりばかりでマップが役に立たない。もう戻るのは無理だと判断し、ゼロさんが階段を先に進もうと提案する。
「この場にいるのは危険じゃないだろうか。進むべきだろう」
「だな。敵がやってくる前に、階段から出るとしよう。勇者さん、いいか?」
「そうですね。行きましょう」
ここにいたら更に土砂が崩れてくるかもしれないし、正面から敵が来たら逃げ場がない。バンさんが先頭に立って、俺たちは目の前に続いている階段を上り始めた。カルマさんが恐怖心からか俺にしがみついているのだが……お互いに頼りなさすぎて何も得るものがない。
「しかし、勇者さん。よく通路なんて見えたもんだな」
「目がいいので、そこだけは自慢なんです……」
山の内部の構造が見えます……などと言っても信じてもらえないので、信じてもらえそうな範囲でバンさんに能力を伝えておいた。そんな話をしていると、ゼロさんの持っているガラス板がピーピーと音を立てた。
『なにやら音がしたが、どうしたのかね?』
「勇者。博士からの通信だ」
さっきの爆発音で目が覚めたのか、博士から通信が入ったらしい。俺たちの方へガラス板をかざしながら、ゼロさんは博士の声に応答している。
「精霊山に到着したから、車を爆発させた」
『派手にやるじゃないか。ストレスでも溜まってたのかね?』
博士……ストレスが溜まると爆発で発散してるのか。なんか科学者っぽい顔が透けて見えた気持ちだ。
『にしても、テルヤ君はアレか?どこかへ侵入する時は大胆だな』
「え……俺、なにかしましたっけ?」
『レジスタへ来るときも、バリアと外殻を破壊したよね?あれ、なおすの大変だったんだ』
あちこちで色々なものを破壊して回っている事実を思い出し、目の調子はいいものの、今だけは少し耳が痛い……。
第87話の6へ続く






