第87話の4『ゴミ捨て場』
この状況、どうしたものか……そうだ。キメラのツーさんに更に地下へと引っ張ってもらえば、泥の塊たちはビックリして離れるかもしれない。そう考え、俺は魔導力車の床にあいている穴からツーさんを取り出す。走っていない車は浮遊しておらず、今は床の穴から敵が入ってくる心配はないようである。
「ツーさん。車を下に沈めて、ここを脱出したいんですが……」
「……」
俺の考えを伝えるも、キメラのツーさんは窓の外の泥たちを見つめている。そして、何を思ったのか俺の手から飛び降りると、ツーさんはヴァンヴァンと吠え立て始めた。
「ヴァアアア!ヴァアアアア!」
「ううううううう……ううう……」
なんだろう。キメラのツーさんに吠えられた泥たちは怯えたような、どこか納得したような声を発しながら車を離れていった。横窓から車の先をうかがうと、道の先をふさいでいた泥たちも徐々に左右へ退いていく。あとは泥たちは襲ってくるでもなく、ギラギラとした目をのぞかせたり、ところどころに見える手のようなものを振ったりしているだけであった。
「ツーさん……あれ、なんだったんですか?」
「キメラ!ナカマ!キメラ!」
「……?」
あのドロドロした物体が、ゼロさんやツーさんと同じキメラなのか。とても、そんなふうには見えない……そうして俺が頭を悩ませている内に、車は洞窟の先へと向けて発進した。洞窟の先へ進むと次第に悪臭が鼻につき、俺たちは可能な限り車内を密閉する。窓の外は……道筋が見えないほどに物が乱雑に置かれている。いわば、ゴミ捨て場である。
「ゴミ捨て場……」
さっきのがキメラだとして、ここはゴミ捨て場。そこまで考えて、俺は1つだけ答えを見つけた。クロルのやつ、自分で作っておいて、役に立たないキメラを捨てた可能性がある。すると、さっきのキメラの妨害は、俺たちを心配して山へ行かせない気持ちからか、はたまた捨てたクロルへ残ったわずかな忠誠か。どちらにせよ、考えるだけ辛い。
「ゼロさん……博士って、キメラを生み出すのに失敗したこととかあるんですか?」
「いや、みんな元気だ。安否が不明であったツーも、勇者と会って目をさましたから」
そういや、俺が来るまではキメラのツーさんは、ずっと眠ったままだったんだっけ。魔物の体を使って作られたようだから、勇者の俺に反応して目をさましたのだろう。その時はどうなる事かと思ったが、今となっては会えてよかったと思っている。
『下水道だ。ここを登れば、敵の拠点へ侵入できそうだ』
車内放送を介して、バンさんの状況説明が聞こえてくる。車の前方には魔導力車が通り抜けられそうな大きい排水管がある。排水管の口は鉄の網がかかっているように見えるが、通り抜けられるのだろうか?俺は運転席へと顔を出し、その自信のほどをアマラさんにうかがった。
「ふさがれてますが、いけそうなんですか?」
「つきやぶる」
「頼もしい……」
とにかく、この異臭悪臭の空間から一早く脱したいらしく、いつもに増してアマラさんは強気だ。お任せしよう。
「では、いざ……」
「発進!」
アマラさんの軽すぎる「いざ」と、バンさんの力強い「発進!」を合図にして、魔導力車は金網を突き破り排水管の中を登り始めた。排水管は徐々に角度も上がっていくし、流れる水量も増していく。それでも、車は押し流されまいとグングン進んでいく。
「うわっと……ッ!」
あまりの振動と揺れを受けて、俺は立っていられずに尻もちをついた。これ、シートベルトしといた方がいいな……そう思って振り返ったと同時、ガシャーンと何かの割れる音がした。そちらを俺は倒れたまま見つめる。
「……ん?」
「ヤベェ!なんか押しちまったぞ!」
車の揺れに体を持って行かれ、グロウがスイッチの周りを覆っているガラスごと、スイッチを強く押し込んでいた。それ……たしか、自爆スイッチじゃないのか?いや、自爆スイッチだな!すぐさま、俺はグロウに叫んだ。
「おいぃぃぃ!それ、自爆スイッチだろ!」
「わざとじゃねぇ!許せ!」
「勇者さん!自爆のカウント、始まってるっすよ!」
「じ……じ……自爆!?するなら先に言ってください!僕は自爆する人が一番キライなんです!うわあああああぁぁぁぁぁぁ!」
大混乱である。折角の自爆スイッチ設定であった為、いずれは誰か押すんだろうな……とは思っていたが、グロウ……お前だったか。
第87話の5へ続く






