第30話の1『再出発』
1話1話の文量が多いとの事なので、今回から短めになります。
その分、更新のペースを早められればいいなあ。
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。魔王四天王の2人目を探すべく、魔物の反応があるというカイガンの村へ向かう事となった。
「テルヤ君。忘れ物はないかな」
「俺はないです……ないよな?」
「せいれいぃ……」
「そうだった……」
そろそろレジスタの街を降りようという時になって、お菓子を買いに行ったルルルが戻っていないのに気づいた。なぜ、そんな簡単な事をヤチャに言われるまで忘れていたのか。それは、あまりにもゼロさんの変化が著して、そちらに意識が集中していたからに違いない。
ゼロさんの見た目は背の高い美人なのだが、まだ顔の筋肉が上手く動かないせいか、出会ったばかりクールキャラ並みに表情の変化がない。なのに仕草やセリフでは完全に慕われていて、俺の袖をつかめる近さにいてくれている。
前回も言った通り、ゼロさんの瞳の中には光がなく、何か見透かされるような気がして目は合わせられない……なお、やましい気持ちは少しである。ゼロさんの服装は薄着ではないにせよ、どことなくボディラインが浮いて出ていて、それも目のやり場に困る。
「勇者。私は、精霊様を探してくる」
「俺が行きますよ……思うに、屋台通りにいるでしょうし」
「……勇者のために、私がしたい」
「え……ええ。あの……お願いします」
ルルル探しを自分から頼まれると、ゼロさんは跳ねるような足取りで下の階へ降りていった。俺は恋愛アドベンチャーゲームの主人公なので恋愛に持ち込むまでが本領の人だから、既にデレてる人への対応は受け身になってしまうのだ。かといって、告白したとか付き合ってるだとかでもないから、それはそれで中途半端な距離感ではある。
「待たせたんよ」
「すごい買ったなあ……」
あまり時間をかけずにゼロさんがルルルとミオさんを連れて戻ってくれたのだが、ルルルの買ったお菓子はリュックいっぱいに入っていて、もはやカバンのフタがしまっていない。
子どもというのは遠慮がなく、知り合いの人というのは無尽蔵に甘やかしてしまうのだ。お菓子代の大半は経費で出そうだが、少しはミオさんのポケットマネーも出させられそうな量である。
「ちょっとは遠慮しなさい……」
「これで、しばらくは食べ物に困らないんよ!」
「……意外と考えてるな」
食料のことまで事前に心配しているとは、あなどりがたし。なお、そろそろ下降地点らしく、博士と警備隊の人たちは何か準備を始めている。その手を動かしながらも、博士は再び俺に尋ねた。
「テルヤ君。準備はいいかね?」
「はい。博士。お世話になりました」
博士はカゴにパラシュートがついたような乗り物を用意していて、それで地上まで俺たちを運んでくれる予定らしい。正直、また意識をもうろうとさせながら街から脱出せねばならないとタカをくくっていた次第、あまりにも博士が優しすぎて涙が出そうである。
「そうだ。テルヤ君」
「はい」
「ゼロを頼む」
「……はい」
博士の声は以前にも増して静かで、どこか寂しそうでもあった。博士の隣にいるゼロさんも、どこか博士の本当の娘のように見えて、改めて見れば顔つきも少し似ている気がする。すると、俺だって色々と詮索するのは野暮に思えて、博士の期待を一身に、一言で受け止めるだけだった。
俺が先に乗り物へと上がり込み、ゼロさんの手をとって引き入れる。続けてルルルと仙人も乗り物に重さを加え、やや若干だけ沈み込んだ。これで、思い出深いレジスタともお別れだ。
地上へ旅立つ瞬間を前にして、最後に博士の、ミオさんの、実は見送りに来ていたカルマ隊員の、レジスタの街の様子を見収めよう。そう考えながら振り返ろうとするも、飛び込んできたヤチャの重さで乗り物は一直線に地上へと落下し始めた……。
第30話の2へ続く






