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第86話の6『木の実式爆弾』

 「とめたほうがいいですね」

 「そうだな」


 ガラス板で計測できる戦闘力ではないと判断し、ゼロさんは熱くなったガラス板を振って冷ましながら計測を中断した。戦闘力という目安を知る事はできなかったものの、ガラス板が大量の魔力にあてられて故障しそうになったと考えると、間接的にも危険度は計り知れないと発覚したようなものである。


 「あれ……ゼロさん。なにしてるんですか?」

 「壊れていないか確認をしている」


 そう何気ない口調で俺に言いつつ、ゼロさんはガラス板を俺の顔へと向けている。今度はものの数秒でガラス板がピピピと鳴り、画面に表示されているものをゼロさんが確かめる。しまった。計られてしまったか……。

 

 「すごいぞ。勇者」

 「すごいんですか?」


 まったく表情は変わっていないが、どうやら凄い結果が出たらしい。とりあえず、ガラス板の通信機が壊れていないのが解ったところで、俺は薄くヒビが入っている画面をのぞきこんだ。


 「これは……すごいですね」

 「すごいな」


 自分の戦闘力を確認してみたしたところ、それはマイナス2という前代未聞の数値であった。いるだけで邪魔になるレベルなのか……俺は。普通に考えたら、まず戦うに見合った力がそなわっていないので、そりゃあマイナスになるのは道理である。ただ、ゼロさんは『精神力などを総合的に』と言っていたので、遠まわしに精神力もないのが証明された……。


 『キになる変なものを発見した。前方、注意してくれ』


 自分の頼りなさを痛感しながら俺が席に戻ると、放送機器を介して警戒を告げるバンさんの声が聞こえてきた。窓から車の前方を見る。そこにはグネグネとしたお化けみたいな大木がある


 「暗くてよく見えないけど……木ですかね」

 「あ……勇者さん。上」


 後ろの席にいるミオさんに言われて、木の上の方を見る。大樹から脈々と伸びている枝の至る所で、何か小さな赤いものが無数に光っているのをうかがえる。これは、気になるものっていうか、木になるものだな……などとギャグっぽいことを考えて場合ではない。もう、明らかに怪しい……。


 『木の枝に見える赤い光なのだけど、1つ1つに魔力が充満している。つまるところ……』


 今度はスピーカーからアマラさんの声が聞こえてきた。魔力がつまっている果実というのが珍しいのか俺には解らなかったが、次の一言で詳細が明らかとなる。


 『近づくと爆発を起こす代物だろう。迂回すべきかな』

 「ば……爆発」


 少なくとも、カルマさんの実家の果物屋で売っているようなものでないのは理解した。赤い光を撃ち落とそうとすれば、すなわち連鎖して大炎上だろう。近づけば無論、あれが俺たちを狙って落ちてくるのは想像に容易い。四天王クロルが仕掛けた罠と見て違いない。


 「皆さん、遠回りでいいっすか?」

 「あ、はい。いいと思います」

 「俺は右に同じ」

 「前に同じく」

 「ええ。よろしくてよ」


 満場一致にて回避が妥当と判断され、今度はミオさんが運転席へと報告に向かう。ミオさんが運転席から戻ってきて間もなく、車は旋回して丘を下り始めた。アマラさんが気づいてくれていなかったら、今頃は大爆撃の嵐の元を駆け抜けないといけなかったか、もしくは派手に爆殺されていたことだろう。本当によかった……。


 「……」


 窓越しに木のシルエットをながめている。遠ざかっていく木と、怪しく輝く赤い果実を目で追う。それは徐々に小さく……あれ?遠ざかって……るか?


 「……?」


 地面の流れや周りの景色を見る限り、しっかりと車は進んでいる。でも、木は遠ざかっていない。不思議に思いながら観察を続けていると、木が大きく揺れた。


 「……んん?」

 「ぐ……ぐっ……ぐああああああああぁぁぁぁぁ!」


 突如として、木が俺たちの方へと振り返って顔を向け、根っこを持ち上げて駆けだし始めた!間違いない!あの木、動いている!


                            第86話の7へ続く




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