表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
305/583

第86話の5『雲の中の怪物』

 戦闘力の話も一段落し、再び俺たちは窓の外に注意を向けている。運転自体は丁寧なので車も揺れは大きくないのだが、地形が凸凹としているせいで車は傾いたり浮いたりしている。精霊山へ近づくにつれて、あちらこちらでは倒れた巨木が道をふさぎ、地面は何かがのたうちまわったように荒れ放題になっていく。


 『少し高所へ上がる。揺れに気をつけてほしい』


 車内放送でアマラさんの声が流れ、次第に車は丘のような場所を上がっていく。高くなっていた木々が晴れて、その向こうに曇り空が見えてくる。深夜である為に空が暗いのは当然なのだが、たまに精霊山から放たれた照明が空に向き、雷が鳴ったかのように光る時がある。


 「……なあ。あれ、なんだ?」

 「ん?」


 暇そうに窓から景色を眺めていたグロウが、空を指さしながら俺に何かと聞いてくる。なんだと言われても、今の俺には何も見えない。しばらくグロウの指より先を見つめている内、精霊山の照明が空へと放たれた。


 「……んん?なんだあれ?」


 やっと見えた。それは雲の中でうごめく、巨大な竜のような影であった。山の上をグルリと回りながら動いており、あれがニュフフンさんを返り討ちにした化け物なのかもしれない。他の人たちも俺と同じものを見つけたようで、不思議そうな表情で空へ視線を送っていた。


 「俺、バンさんとアマラさんに伝えてきます」


 雲の中に謎の影が見えた事、それを伝える為に俺は運転席へと向かった。しかし、当然のようにアマラさん達も竜のような姿の何かを目撃しており、やはり俺と同じく山へ辿り着く直前の脅威だと認識していた。


 「バンさん。アマラさん。あれ、見えましたか?」

 「ああ、バッチリな。アマラさん。あれ、どうなんですか?」

 「不気味だね。でも、神々しくも見える」


 アマラさんは丘の上をバランスよく車を走らせつつ、雲の中にいるものの印象を語っている。あれがなんなのかは俺には解らないが、アマラさんの声の調子からして絶大な危険をはらんだものではないのだと思う。念のために、俺の作戦が通用する相手なのかを判別してもらった。


 「地面の中に入れば、あれをかわせるでしょうか……」

 「見つからなければ、大丈夫なんじゃないかな。今の時点ではね」

 「……?」

 「あれの内部には、底知れないものが眠っている。もしも、それが目を覚まさせば、私にもちょっと解らない」


 魔力のある人には、あれの実態が見えているのだろうか。ただ、これ以上はアマラさんも予想の粋を出ないらしく、あとは目の前の歪な道のりへと目線を戻していた。


 とりあえず、今のところは作戦に支障がないと見て、俺は元の座席へと戻って引き続き雲の中にいる龍の動きへと関心を向けていた。ふと見ると、ゼロさんが戦闘力カウンター……通信機であるガラス板を雲の彼方へとかざしていた。


 「もしかして、計ってるんですか?」

 「試しにやってみようかと」


 そうか。これで戦闘力がつかめれば、どの程度の脅威なのかが俺にも解るかもしれない。ちょっと席を移動して、俺はゼロさんの隣でガラス板の様子をうかがった。


 「……ちょっと時間がかかりますね」

 「やや時間がかかるようだ」


 なかなか計測終了の音が鳴らない。なにやら、ガラス板が微妙に赤くなっている。

 

 「ゼロさん……それ、ヤバいんじゃないですか?」

 「もう少しだろう」


 ガラス板から煙が出始めた……。


 「ゼロさん……それ」

 「もう少しだと思うのだが」

 

 ガラス板にヒビが……。

 

 「ゼロさん?」

 「ああ。まずいな……」


                                第86話の6へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ