表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/583

第29話『変容(俺も少しだけ服が変わったし…)』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。全くバトル要素のない回が幾らか続いてしまったものの、修行のかいあって精霊様と無駄に仲良くなった。そろそろ、ゼロさんにも会えるかもしれない。



 「お兄ちゃん!また、あたちの皿に野菜が入ってるんよ!」

 「おいしくしてあるから、ちゃんと食べなさい……」


 意味があるのかないのかも解らない修行の成果もあって、俺はルルルに説教ができるまでに成長した。だから、なんだといわれれば、なんでもない話である。


 キメラのツー事件に際して研究所と街を繋ぐワープドアは壊してしまった為、今日は街に新しいドアを設置する予定だと聞く。しかし、魔法を使える人が他にいないようで、その役目として街の広場にルルルを連れてくるよう言われている。


 「ここ、もう戻ってこないかもしれないから、忘れ物ないようにね」

 「お兄ちゃん!オーブ持ったのん?」

 「……忘れてた」


 ワルダーの城で手に入れた赤いオーブだが、誰が持っているのかと思い返してみると、知らぬ間にルルルの鞄に入っていた。なくさないよう仮屋の神棚っぽいところに置いておいたところ、あまりにも置き場所にマッチし過ぎて忘れていきそうになった。


 扉を設置する場所は以前と同じく街の広場で、そこでヤチャと仙人も待っていてくれているはず。そして、今日はゼロさんにも会わせてもらえる日だ。借りた平屋のドアを戸締りし、見慣れ始めた街の中を迷わず歩き出す。


 街の人や警備隊の人たちとも非常に打ち解け、ルルルを連れて歩くと食べ物をたくさん貰えちゃう。しかし、それを食べ過ぎると夜ご飯を食べてくれないので、あんまりルルルにはお菓子をあげないよう注意している。


 「テルヤァ!」

 「あ、ヤチャ……あれ……ヤチャか?」


 広場の真ん中には一枚のドアが立っていて、その横には前にも増してビルドアップした筋肉テカテカ男がいた。逆立った髪も金色だったはずなのだが、今は青い髪になっており修行でのパワーアップを彷彿。ついでに、一緒にいる仙人も茶色い木製の入れ歯が口に入っている。ついに普通に話せるようになったかと期待し、俺は仙人にもアイサツしてみた。


 「仙人も、お久しぶりです」

 「バシャモ!シュシュシュシュッ!」


 ……その、木でできた入れ歯はなんなんですか。


 「あっ、もう来てたんすかー?」


 この数日の修行によって変わった事、変わらなかったことを確認していると、後ろからミオさんの声が聞こえてきた。ここに博士がいないということは向こう側のワープドアに待機しているということで、こちら側のガイドとしてミオさんが派遣されたと見える。にしても、このイベントにミオさん1人とは、隊からの信頼は厚いと思われる。


 「ミオさんだけですか?」


 「勇者様たちに関する事となると、私に行くよう圧力がかかるんすよ……みんな、基本的に面倒なことはやりたがらないんで」


 「なんというか……大変、お世話になりました……」


 「ミオちゃん。お世話になりました……」


 「勇者様……精霊様をくださいっす」


 「ダメです……」


 ルルルは口が悪いだけで見た目は美幼女だから、インテリアとして欲しがられるが俺は譲らない。そうこうしていると目の前にある扉が、ほのかに輝きを放ち始めた。きっと研究所側のドアに誰かが魔法を使ったのだろう。待ちぼうけにさせるわけにもいかないので、ルルルに魔法を使うようお願いしてみる。


 「樹に魔法を使った時と同じ感じで、ここと研究所の扉を繋いでほしいんだ」

 「いいけど……あとで、お菓子じゃぞ?」

 「多分、ミオさんが経費でおとしてくれるでしょう」

 「多分、出ると思うので問題ないっす」


 お菓子の代金はミオさんに任せるとして、ルルルは珍しく素直にドアノブへ手をかけた。ものの数秒でドアは真っ白に色を変え、ルルルが手をはなすと、ゆっくりドアが開いた。


 「……おや?」


 ドアの向こうにあるのは薄暗い空間で、のぞきこんでみるも何があるのか解らない。率先して俺が中に入ろうとすると、背の高い何かに鼻先を押し返された。


 「……うわっ」


 その何かは屈んでドアをくぐらねばならないほどの長身で、黒い拘束具のようなものを体の節々に巻いている奇妙な人物であった。灰色の肌はヒビ割れていて、手術をした縫い口がありありと残っている。口元にはガスマスクらしきもの。髪は一本もなく、血管の浮き出た頭には血走った眼が入っている。


 そんな人間かすら判別のつかない物々しい人物を見て俺は退いてしまったが、ここから出てきたという事は博士の知っている人なのだろう。ドアをふさぐ形で立ち尽くす謎の人物へ、手を差し出しつつ質問を投げかける。


 「……どちら様?」

 「……勇者」


 勇者……は、俺だな。うまく喋ることもできないようだ。そんな中、ルルルが何かに気づいた様子で、おもむろに口走った。


 「もしや、ゼロなのん?」

 (姿が変わるとは聞いたが……そうか)

 「ゼロォ……」


 仙人とヤチャも乗ってきたけど……そうなの?言われてみれば、瞳の奥に宿る優しさ。愛しさ。切なさ。もろもろ。それはゼロさんのそれのような気がしなくもなくなくない。あまりの強キャラ感にあてられて肝を抜かれた気分になったが、そうと解れば話は早い。俺は両手を広げ、半信半疑な表情でゼロさんを迎え入れた。


 「ゼロさん……お久しぶりです」

 「……違う。俺……違う」

 「……」


 ……違うじゃねーか。ケモノや宇宙人、ロボット着ぐるみマシーンにモンスター……しまいには概念まで、なんでもござれの恋愛ゲーム主人公だが、この見た目のヒロインは流石にキツイ。どんなに取り繕っても、俺だって心は男の子なのだと実感した。


 「ゴウ。通れないだろう。どいてくれ」

 「……すまない」


 ゴウと呼ばれた謎の人物がドアの前から避けると、ドアの奥から博士……それと、前に俺たちの住んでいる仮屋をのぞいていた女の人が現れた。まず、何について尋ねようか迷いつつも、俺はゴウさんの方の話題から攻めてみた。


 「博士……この人は」


 「キメラのゴウだ。キメラで魔法が使える者はゼロとゴウだけなのでな。はるばる帰還してもらった」


 「ゼロさんじゃないんですね?」


 「どうして、そう思ったのかね……」


 横目でルルルに不服を訴えてみたが、やつは適当なことを言った後ろ目たさから口笛を吹いていた。とにかく、彼がゼロさんじゃないということは、行き着く答えも決まったことである。


 「そちらが、ゼロさん?」

 「勇者……よく解ったな」


 と、言った女の人はパチパチとマバタキをしつつ、チラチラと俺の顔を見ているのだが……なぜか身を低くして俺を威嚇している。そんな、そわそわした動きに反して、ゼロさんは無表情のままであり、目にも輝きが全くない為、どこかヤンデレキャラっぽくも見える。


 「……」

 「……」


 何か攻撃されるのではないかと警戒しつつも、俺は数歩だけ移動してみる。じりじりと追いつめられた末、ゼロさんは俺に飛び掛かってきた。


 「勇者!会いたかった!」

 「え……おっ……ああああぁぁぁ!」


 急に抱きつかれた俺は腰を折られる程の力で締められ、かといって女の人特有の綺麗な香りはするし、とはいえゼロさんの指は背中に食い込んでおり、はたまた何か女の子の柔らかいものが腹部に当たっていて、ちょっと気になる。そんな乙女な男心を察して、博士がゼロさんの襟首を引っ張ってくれた。


 「それは男子には刺激が強すぎる。やめなさい」

 「そうか。しかし、勇者の匂いがする。これはいい……」


 ダメだ。ゴウさんがヒロインだったら、それはそれでキツかったけど……ここまでの旅路で女の子に触る機械が乏しかった俺にとって、このゼロさんはショックが強すぎる。ようやく掴み技から解放されたのだが、一つ忘れていたとばかりにゼロさんは目線を下げて、上目遣いで俺に聞いてきた。


 「勇者。聞きたい事がある」

 「……なんですか」

 「私は、かわいいか?」

 「……」


 困ったな……選択肢があれば、プレイボーイな答えも、ウィットに富んだジョークも言えたかもしれない。でも、今は俺の気持ちしか出てこない。


 「えっと……そうですね」

 「……私も、そう思う」


 口元だけで笑って見せると、ゼロさんは俺の横に立って博士の方を見た。なんのコンタクトがあったのかは解らないが、博士も目を細めて笑っている。そして、気持ちを切り替えるようにして、博士はリュックから何かを取り出した。


 「テルヤ君は、魔王四天王を探しているのだったね」


 「ええ」


 「では、魔物のオーラが強い場所を探していれば、いずれ遭遇するのではないかと考えた。これが、魔物探知機だ」


 博士が差し出したものは腕時計っぽい形をしたものなのだが、文字盤らしきものは何も刻まれていない。腕に巻きつける為のバンドの上についている円盤状の物体をながめていると、その中に単眼と口がゾワッと映り込んだ。


 『うひひひ……こんばんわわわ』

 「気持ち悪ッ!なにこれ!?」


 何か解らないものにアイサツされ、ビックリした拍子に黒い物体を投げ捨ててしまった。それはパンパンと金属質な音を立てて転がり、それでなおも俺に話しかけてくる。


 『なんで?なんで?ねええ?なげちゃうんだねええ?』


 「テルヤ君。なるべく入れ物は丈夫にしてあるし、憎らしい気持ちはあるだろうが……そこは勘弁してやってほしい」


 投げ捨てたものを恐る恐る見下ろすと、黒い円盤の中にある目玉が俺を見ており、その目玉には少し見覚えがあった。これは多分、キメラのツーさんだ。どうして、こんなものの中に入っているのか質問したところ、博士には同じ話をもう一度してもらう事となった。


 「これ、キメラのツーさん……ですよね?」


 「ああ。魔物のオーラが強い場所を探していれば、いずれ魔王四天王と出会うだろう。魔物の場所を探すならば、魔物に協力してもらうに限る」


 「あの……ツーさん。気持ち悪いとか言ってすみませんでした……」


 『勇者め!あまり生意気を言っているとぶっ殺しだよねぇ?うひひひ……』


 怖いマスコットが俺たちの旅に合流した……まあ、あちらには手も足も出ない状態だし、言ってることの割には愛嬌があるから、プレゼントと称して嫌がるルルルの腕に装備させておいた。戸惑っている俺に代わって、ゴウさんがツーさんに質問を投げる。


 「魔物の、位置は?」

 『うひゃあ!あっちだ!あっち!こっち!どっちかな?あっち!あっち!』


 どっちだ……困惑している俺たちに気づくと、ツーさんは円盤に指のマークを出して見せた。その方角に何があるのか、ゴウさんには見当がついたらしい。


 「……セントリアルの街。闘技場イキョー。カイガンの村」


 「最寄りなのはカイガン村のようだな。レジスタの街の速度で移動すれば、ここから3時間程度。近場についたら街から降ろそう」


 レジスタの街は空を移動していて、魔物のいる場所の付近も通過するらしい。博士が言うには3時間程で到着するとの事。その近場でレジスタの街から降ろしてもらうこととなり、それまで俺たちは一時の自由時間をもらった。


 博士とゴウさんは研究所へと戻り、ルルルとミオさんはお菓子を買いに行ってしまった。そんな中、ゼロさんは俺の袖を弱く引き、ヤチャと仙人についても同時に呼び止める。


 「勇者。ヤチャ。仙人。話がある」

 「……どうしましたか?」

 「……少し座って話そう。上へ行かないか?」


 まだまだ時間もあるし、俺たちは街のてっぺんにある公園へ移動する。そこのベンチに仙人とゼロさんが腰掛けて、俺とヤチャは立ったまま話を聞く。


 「ゼロさん。どうしました?」


 「……もう聞いているかもしれないが、私は体の部位が交換となった。もう、魔法は使えない。体の強化はしてもらったが、前のようには戦えない」


 「……」


 「それでも、勇者の近くにいたい。それだけは、先に伝えておきたかった……」


 「おおおぉ!構わないぞおおぉ!」


 ちょっとシリアスな空気を出してくれてたところなのだが、この世界はシリアスが長続きしない傾向にあるらしい。俺が何か言うより先にヤチャが一瞬でゼロさんに許しを出し、すると仙人も考え込む体勢すらなく受け入れる。


 (うん。おっけ)

 「ありがとう……勇者」


 俺、何も言ってないけど……と、俺が仕切り直そうとした矢先、レジスタの街が勢いよくガクンと停止した。その揺れに負けて前のめりに倒れ、俺はゼロさんに支えられる形となった。こういう時、支えられる方じゃなくて、支える方になりたいものである……。


 『勇者ァ!センニーンゥ!その中にいるのは解っているぞ!がはは!』

 (……その声、ブシャマシャ!)


 拡声器を通したような声で、街の外から誰かが呼び掛けている。ブシャマシャって……確か、レジスタの街へ来る前に空中で襲ってきた人だったっけ。街の展望台から外の景色を見ると、飛行船がレジスタの街の行く手を阻むように浮いていて、全身全霊全力の砲撃を繰り出している。それらは全てバリアに阻まれており街へのダメージはゼロなのだが、ブシャマシャさんの威勢は変わらず豪快である。


 (ここにいる限り、先へは進めん!勇者!センニーン!外へ出てくるがいい!)


 これ……あれか?駐車場の前にネコがいて、車が出せないみたいな。ブシャマシャさんを墜落させないよう、街が止まってあげてるみたいな?これは戦いに出ないといけないかなあ……と俺が顔を曇らせていると、街の入り口である光の門の前までヤチャがひとっ跳びし、右手をヴォーヴォーと光らせた。


 「見せるぅぅ!修行の成果ああぁぁぁ!」

 (ヤチャよ。新必殺技を見せてやるのじゃ……ふう)


 修行の末、ヤチャは新たな必殺技を会得したらしい。彼は両手首をくっつけて手でお椀を作り、そのまま腰のあたりにそえた。その時点で、『あ……あれだ』と俺は感づいたのだが、次に出た必殺技の掛け声が、これである。


 「こおおおおぉぉぉぉんんんんんんんんんにいいいいいいいぃぃぃぃぃぃちいいいいいぃぃぃぃぃ……波ああああぁぁぁぁ!」 


 突き出したヤチャの両手の中からレーザーのようなものが発せられ、それはブシャマシャさんの飛行船を半壊させた。でも、かろうじて墜落はしていない。


 『バリアの中から攻撃とは卑怯なりりいぃ!出てこい卑怯者のセンニーン!』

 (ここまで言われては、わしも黙ってはいられん。究極奥義、わしの命と引き換えに発動させる)


 そんなの、こんなところで使っちゃうの?と思いながらも俺が引き止める間もなく、仙人はヤチャと場所を交代するように立ち、両手をクロスさせて顔の前に構えた。


 「ひふほ!ほぉああああぁぁぁ!」

 「ちょ……仙人。なにを……」


 急いで止めに走ろうと思ったのだが、やはり必殺技の掛け声を聞いて俺は立ち止まった。


 「入いいいいぃぃぃぃれえええええぇぇぇ……波ああああぁぁぁぁぁ!」


 仙人の口に入っていた木製の入れ歯が虹色に輝きながら発射され、それは飛行船を遥か彼方へと消し飛ばした。もちろん、仙人の入れ歯は戻ってこない……。


 (また作らねば……ふう)


 命、もとい、入れ歯を失った仙人は、またしても口の中が寂しくなってしまった……まあ、なにはともあれ、2人の活躍によって活路は開けた。どういう顔をしていたらいいかも判別がついていない俺の背後より、ゼロさんが何か呼び掛けている。


 「勇者。私は、勇者のそばにいたい。いい……だろうか」

 「……え?お……おう」

 「……あの2人のようには戦えないが、これからも、よろしく頼む」


  ……うん。俺も。


第30話に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ