第84話の4『ドキドキワクワク車内体験』
「私は運転に戻ろう。それなりに休ませてもらったからね」
グロウに危ないながらも運転を任せつつも睡眠をとっていたアマラさんが、そろそろ運転手交代に向かうと言って起き上がった。とはいえ、転がってきた巨大岩石みたいな魔物しかり、木の上から落ちてきた魔物の大群しかり、事件が続いたので落ち着いて休めたのかは不明である。俺は苦労を思って言葉を差し上げる。
「もういいんですか?」
「元々、あまり寝ないからね。私は」
「無理しないでくださいね」
「ご所望とあらば、お姉ちゃんのここ、空いておりましたわよ?」
寝心地が悪くて眠れないと考えたのか、カリーナさんが太ももをポンポンしながら膝枕の提供を勧めている。カリーナさんの太ももが筋肉質なのか、ふっくらしているのかはメイドスカート越しなので解らないものの、寝心地がいいのは見て間違いない。むしろ、寝心地はいいのだろうが、きっとドキドキしてしまうので寝れない。
「そちらを使用した事実が発覚すると、カラード君に怒られてしまうのでパス」
「あらあら」
カラードさんは口では知った事ではないと言いつつも、それなりに男の人とお姉さんの関係性が気にしそうな人であるが、実際そうなのかは解らないのでただの俺の偏見である。アマラさんが運転席へ入ると車は一時的に停車し、しばしして揺れのない丁寧な動きで再発進する。アマラさんと運転を交代したグロウが、腕の調子を確かめるように回しながら客席へと戻ってくる。
「グロウ。お疲れ」
「別に疲れてねぇし」
「そうなのか」
「まだまだ運転できるし」
なんで子供のわがままみたいな言い方なのか……にしても、グロウが豪快にスピードを飛ばしたかいもあって、幾分かの遅れは取り戻したかもしれない。偶然とはいえ魔物の軍団を見つけて倒せたのはメリットのような気もするが、敵に俺たちの動向を知られたのは懸念でもある。
「なあ。勇者よぉ」
「ん?」
通路を挟んだ近くの席に腰を落ちつけたグロウが、うずうずした様子で俺に話しかけてきた。なんだい?
「車、すげぇぞ。おめぇも運転してみろよ」
「……俺、魔力ないし」
「なんでねぇんだよ。ぶっとばすぞ」
「なんでだよ……」
車の運転が余程、楽しかったのか、楽しさを共有したさ余って無茶苦茶を言っている。本当にぶっ飛ばされる訳ではないのでいいのだが、ちらっと後ろを見たら『魔力がない』というセリフが聞こえたせいか、心なしゼロさんがしょぼんとししていた。一応、「あなたの話じゃないです……」とだけは伝えておいた。
『気になるものが見えた。車、止めまーす』
車内の壁についている穴からバンさんの聞こえた。ぼやっとしたエフェクトのかかったような音声が響いた為、魔導力車についている放送設備らしきものを使っていると考えられる。その言い方からして危険信号ではなさそうだが、何が見えたのだろうか。車が旋回して向きを変えると、ガケから見渡した景色の中に何か、ものすごい異彩を放つものが見えた。
「……?」
暗い夜空。暗い森。その奥の奥にゴツゴツとした大きな山があるのだが、周囲の暗闇を帳消しにするくらいライトアップされている。何本ものサーチライトがクルクルと空へ光を放っている。それ以外も、さながらクリスマスのイルミネーションと見紛うレベルでカラフルかつ派手である。あれは……あれって……もしかして。
『えー……右手に見えますのが、精霊山・ソルです』
やっぱり……テーマパークの中央に立つ城みたいに改造されてる。それなりにセンスよくてキレイなのが逆に怖い。
第84話の5へ続く






