第84話の2『なお、この通信装置は通話終了後に爆発する』
『あー、吾輩の声が、聞こえました?聞こえます。そうですか。そうですか』
「……」
ガラス板がピカピカと発光し、頭にカプセルをつけたような男が画面の中に映し出される。しばし、俺たちは敵の話に耳を向けつつ、敵の動向へ注意を向けていた。すると、ガラス板は細いコードらしきもので体を持ち上げ、俺達の方へと向き直るようにして垂直に立った。
『キメラのゴミが言う話では、一匹だけ精霊をとり逃したとか?どいつだ?どいつかな?』
ガラス板の通信機は自立できるらしく、ゆっくりと俺達の顔を眺めまわしている。そんな中、キメラのツーさんが俺の腕の装備から飛び出し、クロルに対して怒りを露わとした。
「ルルルルル!返して!ルルルルル!」
『……なんだぁ?汚れた生き物。いや……お前、キメラか?』
「ルルルルル、返して!」
『寄せ集めのゴミめ。失せろ』
クロルが画面の向こうで指をパチッと鳴らす。ガラス板の上部についているアンテナらしきものから細いビームが発射され、キメラのツーさんをバチリと弾きとばす。
「ギャギャッ!」
「だ……大丈夫ですか?」
すぐさま、俺は煙が出しながら俯いているツーさんを拾いに走る。赤くただれた部分はあるが、それでも瞳はジッとクロルの方を見つめており、痛みよりも憤りが大きそうに思える。そんな俺たちをよそに、クロルは何か気づいた様子で高笑いを始めた。
『なぜ、キメラを飼っている……そうかぁ!はははぁ!お前たち、あのゴミ愛好家の仲間か!おもしろい!おもしろい!』
「あなたは、博士の知り合いだと聞く。どうして、魔王の部下などになったのかな?」
『単純!魔物の体を使い放題!実験の限りを尽くし、そして……最強の兵器を作り上げる!吾輩の執念がそうさせた!』
「へぇ」
アマラさんは武器に手をのばしつつも、敵の目的を探るべく会話を図る。だが、今まで機嫌が良かったクロルは一変して、怒りを声に含めて怒鳴りだした。
『キメラなど、所詮は寄せ集めのゴミくずにすぎません!やつは気が触れている!吾輩の使い方が一番、偉くて正しいのです!お前ら、精霊山へ来い!全員まとめて殺した上で、やつのところへ送ってやる!』
クロルは早口でまくしたてると、今度は急に物静かになり俺たちに言い聞かせた。
『……お前たちに拒否権はないのです。もうすぐ。もうすぐ。この大陸は吾輩の作り出したのキメラによって焼き尽くされる。止める方法は……お前らの悪い頭で考えたまえ』
「それはとにかく、ルルルは助け出してみせるぞ!」
『黒服の小僧……よろしい覚悟だ。なお、この通信装置は通話終了後……』
「……まずい!爆発するぞ!」
『ばくは……先に言ったな!小僧!』
なんとなくセリフの雰囲気から爆発しそうな感じがしたので、俺は皆を避難させつつ通信装置から離れた。爆発寸前のガラス板はが何故か俺の方へと走ってくるからして、巻き込まれてたまるものかと俺は全力で逃げ出す。
『3……2……』
「くるなあああぁぁぁ!」
追いつかれる寸前、アマラさんがガラス板をワイヤーで釣りあげて、そのまま明後日の方向へと投げ飛ばしてくれる。空高くへと飛ばされたガラス板から大きな火花と共に砕け散り、その衝撃で周囲の木々が一気にざわつく。それを見て、バンさんが不愉快そうに小声で漏らす。
「……つまらねぇ花火だ。みんな、準備ができた次第、出発しよう」
横転していた魔導力車は既に助け起こされていて、床に穴はあいているものの走り出せる状態まで持ち直しているらしい。みんなもクロルの挑発に思うところがあるのか、黙って魔導力車へと移動を始めた。しかし、ゼロさんだけは足を止めたまま、ガラス板の爆発で明るんでいる空を見上げている。
「どうしました?」
「いや……大したことではないのだが」
「……」
なんだか言い出しにくいような調子で、ゼロさんは胸の辺りをなでながら俺に自分の心境を明かした。
「あれほどゴミゴミと何度も言われたのは、生きてきて初めてだ……」
「ショックだったんですか……」
こんなに可愛いゴミがいるかよ……と本当は言ってあげたかったが、そんなキザなセリフを言う練習はしてきていないのでガッツが足りない。ゼロさん……すみません。
第84話の3へ続く






