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第83話の6『魔物の体質』

 (わし、生きてる……はぁ……はぁ……)


 仙人が生存している事実は伝わってきているものの、それなりに距離があって通信するのに疲れるのか、疲労を込めた息づかいがテレパシーにまで入ってくる。仙人は空を飛べるから、こちらから探しに行くよりは来てもらった方が早い気がする。そう考えていると、わずかに間をはさんで、仙人からの追伸が届いた。


 (……近い)

 「……?」


 いや、そんなに遠くへは飛ばされていなかったのか、今度は近いと念でメッセージが送られてきた。


 (……わし……ちか……さがす)

 「……んん?」

 (入れ歯……見つけて……追いつく……先に……い……け……)

 「……ああ。なるほど」


 何の話かと思ったが、どうやら入れ歯センサーが近くを指して反応しているようである。すでに陽は落ちて暗いので見つけるのには苦労するかもしれないが、この機会にひろっておかないと戻った来た時には野生動物に持ち去られていたりする恐れはある。あと、仙人は入れ歯がないと戦闘に置いても力を発揮できないそうだから、見つけ出してもらった方が俺たちも助かる見込みだ。


 「仙人、入れ歯を見つけて合流だそうです。いいですか?」

 「その分、私が力になる。問題ない」

 (入れ……ちか。見つ……会う。では……)


 ゼロさんには承諾を貰い、仙人には入れ歯探しを頑張ってもらうことにした。その後、昔の女子高生が使いそうな略語で総括を入れ、仙人からのテレパシーは絶たれた。


 仙人が健在との事で安心した為、改めて俺は木の下を見てみる。そこに倒れていた魔物たちは体から光を放ちながら消え始めていて、立っている者は既に一人も残っていない。そんな中、アマラさんはワイヤーのようなもので1人の魔物を縛り上げている。


 「どうやら、この魔物がリーダー格のようだね」

 「ぐうう……」


 アマラさんが捕獲しているのは俺たちを地面に引きずり込もうとした、ソマンスという魔物である。被り物で隠されていて表情は見えないものの意識は戻っているようで、声をかけてみたら情報が得られるかもしれない。俺は敵から距離をとりつつ、ちょっと強気な姿勢で質問を投げかけてみた。


 「おい!キシンとかいうやつ、どこに行った!」

 「くくく……無言」


 何も話すつもりはないらしく、わざわざ無言とか言われた。したら、アマラさんが俺と視線を合わせた後、縛っているワイヤーをギリギリと引っ張った。強く体を締め付けられ、ソマンスは悲痛な叫び声をあげている。それに便乗し、俺もソマンスを脅しにかかった。


 「ぐおお!」

 「この野郎!言わないと苦しい目にあうぞ!」

 「くくく……いいのか?」

 「なに?」

 

 そう不敵に笑い、ソマンスはワイヤーをすり抜けようとした……ような気がしたのだが、アマラさんが魔力を込めているからか、それについては失敗したと見られた。やや慌てたような口調で急遽、路線を変更する。


 「い……いいのか?我を痛めつけて」

 「なんで?」

 「我ら魔物は、激しい苦痛を味わうと輝きながら消えるのだ!消えてしまうのだ!消えるぞ!よいのか!?」


 随分とファンシーな生き物たちである。アマラさんが試しにワイヤーをギュッてしてみたら、ソマンスは光の粒を立ち昇らせながら半透明になり始めた。つまり、拷問の類は効かないと言いたいのだと思われる。


 「ぐおおおぉぉぉ!無言!無言んんんぅぅ!」

 

 これ以上、ソマンスからは情報を得られないか……と諦めかけていると、アマラさんが魔導力車の方へと手を振って誰かを手招きした。横転している魔導力車を持ち上げる手伝いをしていたカリーナさんが、スキップしながら俺たちの方へとやってくる。


 「どうされました~?」

 「こちらの魔物なのだけど、口を割らせてくれないかな?」

 「はぁい!」


 軽いテンションでアマラさんの頼みを引き受けると、カリーナさんはソマンスの後ろに立った。背後に立たれ嫌な予感がしているのか、ソマンスは自己暗示をかけるが如く独り言をつぶやいている。


 「無言無言無言んんんぅぅぅ!」

 「……それ!」

 「ぬくぅ!」


 カリーナさんがソマンスの背中に触れた。その途端、ソマンスは女の子みたいな甘い声を漏らしながら身をよじり始めた。


 「くっ……くっ……なにする……くっ……」

 「はい。全部、しゃべっちゃいましょうねぇ~」

 「無言……おっ……無言……おっ……おおっ」

 「……ゼロさん。魔導力車の方、お願いできますか?」

 「解った」


 なんかソマンスの反応が気持ち悪いので、それをゼロさんの目に触れさせなくて俺は別件を依頼した。その後もカリーナさんのマッサージは続き、ソマンスが痙攣と同時に口を割り出すまで5分くらい要した。その間、あえぐソマンスを目視していた俺とアマラさんの心のダメージも、まあ……それなりである。


                               第84話へ続く


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