第83話の5『生還』
(屋根、開いたら出られない?)
「もう車、天井まで埋まっちゃってますね……」
仙人がスイッチで屋根を開いて脱出できないかと提案するが、すでに屋根の上まで地面に引き込まれているようでいて、開けたとしても土がなだれ込んできては助からない。グロウが車をしきりに動かそうとしてくれているものの、こちらも自力で走っては脱出できないとみられた。となると……。
「車を上に持ち上げるか、下から引っ張ってる敵をやっつけないと……」
「……ッ!勇者、敵の能力は知っているか?」
そうか。ゼロさん達は精霊神殿に来てないから、ソマンスの能力を知らない。すぐに俺は敵の能力を明かした。
「敵は壁を通り抜ける能力を使って、車を地面深くに引っ張り込もうとしていると考えられます!」
「……下にいるのか?」
「恐らく」
すると、ゼロさんは車の床へ右手を押し付けながら、取り急ぎ何かを探り始めた。その後、自分の体から離れるよう俺たちに告げる。
「下がって」
「……?」
ゼロさんの右腕にはアーマーらしきものがついており、力を込めて見せるとギュンとモーターの回る音がした。直後、右腕の先から閃光が放たれ、瞬間的に車内を真っ赤に照らした。ガゥンと金属の割れる音が聞こえる。俺たちの視力が戻った時には、魔導力車の床に穴が空いているのが見えた。
「……おい。止まったぞ?」
窓を閉めようと引っ張っていたバンさんが、流れ込んでくる土の量を見て車の埋没が止まったのと知らせてくれた。ただ、車の壁はミシミシと音を立てており、このままでは地面の中で土に押しつぶされる危険性がある。すぐに仙人がバリアのスイッチを押し、車の耐久力を上げてくれる。
(……もう敵、倒したか?)
「車の傾きから、敵の位置を把握して撃ち飛ばした」
「あとは脱出ですね……」
「もう一発……」
立て続け、ゼロさんが穴の中へ左手を向け、今度は真っ白な衝撃波を放った。その勢いに押されて、埋まっていた魔導力車が地面から飛び出す。飛び出すのだが……その威力が強すぎて、車は地面から一気に空まで打ち上げられた。驚いた仙人が壁に体をぶつけてしまい、その振動による誤動作で車の屋根がオープンしてしまう。
「ひょ……」
「……あ、仙人!」
ここで車から振り落とされたら絶体絶命なのは明白で、俺は宙をグルグルと回転している車の中、座席へと必死でしがみついていた。そんな中、目を回した仙人が車から放り出されていく。誰も助けられる人はおらず、ましてや車が地面へとぶつかる衝撃にそなえるだけで精いっぱいだった。引き続き、車は勢いよく落下していく。
「うわあああああぁぁぁぁ!」
「……」
地面へと衝突する……そう覚悟して目を閉じる。その時、再び先程と同じようなモーター音と閃光、衝撃波の放たれる音がした。落下する車の重力はなくなり、体にも負荷はかからない。俺が目を開く。屋根が開いたまま、横転している車の中にいた。
「た……助かった?」
「すまない。先程は威力を誤った……着地は成功した」
ゼロさんの両腕に装備しているアーマーからは、薄く灰色の煙が上がっている。それは一体、なんなんだろう……と聞きたいところではあるのだが、また地面へ引き込まれては困ると考え、速やかに俺達は車の外へと避難した。
「勇者さん。大丈夫っすか?」
「あ……なんとか」
車の外にいた魔物はミオさん達が撃退し尽くしていて、アマラさんやカリーナさんにもケガはなさそうである。俺たちを地面へ引っ張り込んだ敵についても、意識を失った状態で土の上にプカプカと浮いていた。ルルルをさらったやつは……どこにも見当たらない。そこで、ふとバンさんが仙人の姿がない事に気づく。
「あれ?お爺さんは?」
「車から飛び出してしまって……」
「そうか……悪い。それは助けられなかった」
仙人の行方を捜して、空や森の中へと視線を向ける。していると、やや電波の悪いテレパシーが頭の中に伝わってきた。
(……ど)
「……あ、仙人。生きてるんですか?」
こちらの声が聞こえないのは知っているのだが、なんとなく俺の方からも呼び掛けてみる。みんなで耳を澄ませていると、仙人のテレパシーが途切れ途切れに聞こえてきた。
(……ど)
「……」
(……どっ)
「……?」
(……どっこい……生きてる)
とりあえず、元気そうで何よりです。
第83話の6へ続く






