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第82話の6『勝算』

 「俺たちの目的は精霊ちゃんの救出に据えるが、他にも拉致された被害者がいるのであれば、救出の機会を逃すべきか否か」

 「あの……バンさん。ちょっと聞きたいんですが……」


 ルルル以外の精霊様や、霊界神様が魔物に誘拐されている事実を知り、そちらに関してもバンさんはチャンスがあれば救い出そうという気概である。ただ、これだけの人数しか俺達には味方がいないにも関わらず、バンさんの心持ちが非常に強い点が気になる。それなりに、勝算はあるのだろうか。


 「俺達、数えるほどしか仲間がいないんですが……にしては、バンさんは結構、強気なので、どのような算段なのかと思いまして」

 「ああ。今回、俺たちのチームにはアマラさんがいるからな。カリーナさんがいてくれるのも大きい」

 「あら。頼ってくれてるの?うふふ」


 そういえば、俺はアマラさんが戦っているところをほとんど見た事がないし、引き車ジャック事件の犯人を一瞬でしばいた光景でしか戦力を計ることができない。カリーナさんに関しても同様で、未だに俺の中では料理が得意そうなお姉さんでしかない。でも、そんなに強いのだろうか。そこについても尋ねてみる。


 「アマラさんって……なんというか。例えるならば、ヤリを持った普通の人でいうと、何人分くらいの強さなんですか?」

 「15万人くらいか?カリーナさん」

 「う~ん……それは、控え目に申し上げてかしら?」


 『ヤリを持った人』という例えが悪かったのか、絶妙にアマラさんの強さが伝わってこない。とりあえず、俺たちは9人しかいないとしても、この魔導力車には少なくとも15万人のヤリ兵が乗っていると見ていいのだろうか。そんなに強い人だったのかと漠然ながら驚いたと同時に、天空闘技場でゼロさんと対決にならなかったのを心から感謝した。次に、バンさんがカリーナさんの評価について考える。


 「アマラさんを15万とすると、カリーナさんは……10万人くらいでいいですか?」

 「やだぁ。もっと少なくていいのよ?」


 見た目が筋肉質でない上、魔法使いでもないであろうカリーナさんの強さが更に謎である。けど、それだけ強い人たちがいると解れば、バンさんがルルル救出に肯定的なのも理解できる。他にもバンさんには考えがあるようで、俺の仲間の顔を一通り眺めた後、ゆっくりと語りだした。


 「四天王を倒せるのは、勇者だけ。そうなんだろう?」

 「はい。そのようですが」

 「……勇者さんにしてみれば、四天王との戦いが主目的だ。きっと、今回の作戦も、四天王と俺たちの接触を心配して一緒に来てくれたんだろう。だったら俺も、微力ながら手伝わせてもらおうじゃないかってさ」

 「バンさん……」


 そうだ。ここでルルルを助けて撤退したら、今度は俺達だけで四天王と対決しなければならない可能性はある。今回、これだけ強い人が一緒に来てくれている。これは俺にとって、間違いなく追い風だ。まだ四天王の情報も少ないし倒せる見込みもついていないが、四天王の打倒も頭に入れておくべきではあるかもしれない。バンさんの言葉を受けて、ゼロさんも俺の背中を押すように言う。


 「勇者。やれることをやろう。私も協力する」

 「……解りました」

 「まあ、魔王レベルの際どい敵がいなければ、私が責任を持つよ。安心して欲しい」

 「あ……起きた。なんだ。聞いてたんじゃないですか」


 今さっき起きたであろうアマラさんが、サンドイッチを1つもらいつつバンさんに告げる。聞いていないと思って喋っていたバンさんも、ちょっと恥ずかしそうに頬をかいていた。そんなバンさんに対し、アマラさんが続けて注意を投げる。


 「しかし、バン大佐。私は一つ、心配事があるのだ」

 「なんですか?」

 「……彼の運転、1人で大丈夫かな?」

 「あ……」


 グロウが車を暴走させ始めない内に、バンさんは急いで運転席へと戻っていった。


                                   

                                    第83へ続く

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