第81話の6『猶予』
「勇者さん。無事だったっすか?」
「あ、はい。なんとか」
ジャジャーンさんから降りてきた俺たちを見つけ、ミオさんが小走りで俺たちの方へとやってきた。事前にカルマさん……いや、サカナカナさんが詳細を伝えたのかもしれないが、ジャジャーンさんがやってきても魔導力車の人たちは警戒する様子がない。ミオさんの後ろでゼロさんも何か言いたげなのだが、ミオさんが先にルルルの不在について理由を聞いた。
「あれ……ルルちゃんは、どこに行ったっすか?その子は?」
「俺達、このヘビさんの頼みで、精霊神殿に行きまして……この子、精霊のリリーさんです」
「リリーですぞ……」
「へぇ、いいっすね。精霊神殿、私も行きたかった」
「それで……まあ」
ジャジャーンさんたちに襲われた一件は水に流されたのか、川に流された冒険の後とは思えないくらいミオさんの反応が軽く、それはそれで本当のことを逆に言い出しづらい。どんな反応がくるのか予想はつきつつも、俺は神殿で起こった事実を短く伝えた。
「魔物が来て……ルルルはさらわれました」
「……ええ?」
「精霊様は、連れて行かれたのか?」
俺の報告に戸惑いを隠せないミオさんの後ろから割って入り、ゼロさんはグッと俺に顔を近づけて聞き直す。それに俺が頷いて見せると、今度はミオさんが魔導力車の方へと大きな声を出し、作業中のバンさんへと呼びかけた。
「バンさん!今、大丈夫っすか?」
「ああ、今行く」
大きな工具を地面に置き、バンさんが俺たちの元へと走ってくる。途中で、バンさんはジャジャーンさんの目元のキズを見つけ、お互いに軽く会釈をかわした。それからリリーさんを一瞥したのち、視線をミオさんへと移しつつ会話へ参加する。
「どうした?」
「ルルちゃん……魔物にさらわれたらしいっす」
「……どこに?」
穏やかな顔をしていたバンさんが、まゆをしかめつつも俺に質問の矛先を向ける。それについては俺に先立ってジャジャーンさんが、いてもたってもいられないといった焦りを交えて答えた。
「予測では、精霊山。魔物どもの拠点となっている可能性は高い。早急に救助を要請したい」
「そうか。まあ、あの山が怪しいのは承知の上だが」
「それとなんですけど……」
「……?」
ジャジャーンさんの説明を聞き、バンさんは腕を組みながら思考を巡らせている様子だ。ただ、まだ他にも伝えておかないといけないことがある。俺は小さく挙手をしつつ、それをみんなに教えた。
「魔物の言っていたことから考えて、そこに……四天王がいると思われます」
「ッ!?」
四天王という言葉を耳にして、バンさんもミオさんも驚いたように口を小さく開く。ゼロさんも大きく表情には出さないまでも、わずかに目を細めて俺を見つめる。こめかみに薄く冷や汗を流しながら、バンさんは目を閉じて考え込む。そして、ジャジャーンさんに頼みを告げた。
「相談の猶予が欲しい。あまり時間はとらない」
「よかろう。それも、すみやかに。このジャジャーンが、この身を戦場へ向けぬ内にな」
「ええ。勇者さん。他のみんなも。車へお願いします」
魔導力車の整備をしていたアマラさん達にも声をかけ、リリーさんと霊獣の2人を残して俺たちは魔導力車へと乗り込んだ。ミオさんがカルマさんを呼びに行き、ミオさんとカルマさんの乗車をもって不在であるグロウ以外の全員が席へとつく。
調査の対象となっている山が敵の拠点であり、ましてや四天王の滞在も可能性を残す。こうなれば、作戦の中断や撤退もやむをえない。そういった問題について言及されるのだろうと考える。すると、俺の目の前の席に座ったバンさんが、いの一番に今後の動向を示した。
「精霊様が、四天王にさらわれた。俺は助けに行こうと思うが、みんなは、どうする?」
第82話へ続く






