第81話の5『物静かな人』
中へ入ってウロコを閉じられてしまえば、それはそれは奇妙な密室である。窓もないからして、周りに見えているのは赤黒くうねっているジャジャーンさんの内部ばかり。もしリリーさんと一緒じゃなかったら、肉肉の壁に孤独がトッピングされて発狂していたかもしれない。
「……」
リリーさんはというと、自分の代わりにルルルが誘拐されてしまったことを気に病んでか、体育すわりのまま静かにうつむいている。そうでなくても霊界神様や他の精霊様が連れ去られている訳で、彼女の心境は推し量って違わないだろう。せめてもの気休めにしかならないが、どうにか元気づけられればと思い俺は声を出した。
「俺だって、ルルルには何度も助けられましたから……必ず助け出しますよ」
「え……あのルールルルが、ちゃんと働いたですぞ?」
それはそれで酷い言い草だが、そういや俺と会ってからも事ある毎に面倒そうな感じを表に出してはいた。それでも、『あたちは行かない』というセリフが最近は減って、『あたちも行く』が多くなってきているのは信頼度の表れととっておこう。
「はい。ルルルがいなかったら、四天王をやっつけるのは無理だったかと……」
「勇者様は、もう四天王を成敗しておられる!ど……どんな風に倒したのか聞かせてほしいですぞ!」
「え……」
多分、俺の武勇伝を聞いて、ルルル奪還への期待に結び付けたい気持ちなのであろう。だけど……どうやって倒したかと言われれば、俺自身は大したことはしていない。とはいえ嘘をつくのもよくないし、ありのままのエピソードを正直に話す。
「まず、一人目の四天王・ワルダーですが……」
「ええ」
「会った時には、すでに事切れた様子でした……」
「ひえええ……会っただけで!?」
嘘は言っていないので……でも、いまだにワルダーを倒したのが誰なのか、よく俺にも解っていない。次は……ジ・ブーンか。みんなでフルボッコにしたものの、俺がしたことと言えば……。
「2人目は、珠をもぎとってやったら改心しました……」
「魂を!?くわばらくわばらですぞ……」
四天王の話をしてみたら、逆に目をあわせてくれなくなった……なぜだ。そういや、リリーさんは俺とグロウとルルルのことしか知らないから、全面的に俺が四天王と戦ったイメージを抱いているのかもしれない。そうなれば、仲間の人たちについても話さなくては誤解をまねきかねない。
「でも、俺以外の、仲間の人たちが強いので、助けられてばかりなんですよ」
「そ……そうですか。あの怖い鳥の人で?」
「いえ、あれは仲間じゃないので……今回は、パワーアップの塔の仙人も来てくれてますよ」
「ああー……ですぞ」
ルルルと仙人は知り合いだったから、リリーさんとも会ったことがあるかと思ったが、この反応からするに知っていそうで知らないようだ。ヤチャは今回の作戦には来てないし、あとは……。
「あと、ゼロさんという人なんですが……物静かな人なんですけど、強くて優しくて、いつも助けてもらってます」
「そ……そのような人も来てくれてるのですか」
「勇者よ。無事に到着ぞ」
ジャジャーンさんの声がして、スゥッとウロコが開いた。魔導力車は川のフチに戻されていて、大体の人は修理を手伝っている様子である。ジャジャーンさんから出ると、リリーさんは顔触れを一通り見て俺に尋ねた。
「……あの、一人だけ物静かに川を見つめている人が、ゼロさんですぞ?」
「いえ……」
あれは何もすることがなくて、ただ川を見ているカルマさん……。
第81話の6へ続く






