第81話の4『そういうことなんじゃねぇのか?』
ジャジャーンさんのヒジと呼ばれる場所を発見し、刺さっている矢を強く引っ張ってみる。矢の先端には紫色の液体が塗られていて、それが少なからずジャジャーンさんの体をしびれさせていると思われた。グロウの手の切り傷には適当な布を巻いておいたが、魔導力車へ行けば治療箱などもあると考えられる。
「勇者様……ルールルルは、どうなってしまうのですぞ?」
「……ですよね。グロウ。キシンってやつ、どっちに行ったんだ?」
「大まかにいやぁ、あっちだな」
グロウが大まかに指さした方角……さっき神殿の入り口から一望できた限り、そちらの方向には大きな山があったように記憶している。その山の正体については、ジャジャーンさんの口から答えが出た。
「精霊山ッ!やつらめ!逃がさぬ!」
「あ、待ってください!」
すぐにでも精霊山・ソルへ殴り込みをかけようとするジャジャーンさんを呼び止め、俺は傷ついて眠そうにしているリリーさんの方を見る。
「リリーさんを神殿へ置いていく訳にはいきませんし、ジャジャーンさんも多少は、体に痛みがあるように見えます。そこで、お願いなんですが……」
「……?」
「ここでリリーさんの護衛をお願いできますか?」
「……」
顔だけ俺の方へと向けていたジャジャーンさんが、体をUターンさせて俺の前に頭を下げた。その目には怒りやら焦りやらが透けて見える。そんな俺たちを見つつ、グロウは傷に巻いた布を口で引っ張って締め上げながら言う。
「勇者!いますぐに襲撃に行こうってんだな?」
そんなわけがないだろう……と普段なら言い返すところだが、鳥かごに捕らわれて痛めつけられているルルルの事を思えば、バトル漫画主人公として優先すべきはグロウの言い分であろう。できるならば、俺だって四天王も部下もぶっとばして、一秒でも早くルルルを助け出したい。だが……俺はバトル漫画の主人公じゃあない。
「……いや、まずは魔導力車へ戻る。みんなに話をしよう」
「……」
「そして、確実に、ルルルを助ける」
「……私に乗るがいい。精霊様も含めて、全員を川まで運ばせてもらうわ」
俺の言葉に期待をくれたのか、ジャジャーンさんはリリーさんや俺たちを乗せて、壊れた橋のある場所まで運んでくれると言う。ただ、その決断に関して、グロウは面白くなさそうに目を細めている。
「……グロウ。すまない」
「……まあ、つまらねぇのは間違いねぇ」
「……」
「だが、そんなお前に、俺は負けた。そういうことなんじゃねぇのか?」
「……ありがとう。よし、すぐ行こう!」
そうと決まれば、ルルルを助けたい精いっぱいの気持ちで、俺の体も早く動く。リリーさんの体を持ち上げ、ジャジャーンさんへの乗り込みを開始する。でも、大木より更に太いジャジャーンさんの体なので、どこから背中に乗ればいいのか解らない。ちなみに、それなりにヌルヌルしているから、乗っても滑って落ちてしまいそうな気がする。
「えっと……ジャジャーンさん。どこから乗ればいいんですか?」
「こちらより」
どちらより……そう思いながら探していると、目の前にあったジャジャーンさんの大きなウロコが、パカッと車のドアみたく開いた。中は……非常に肉々しい上に、なぜか明るい。
「おらぁ、自力で飛んでいくわ」
「あ……」
グロウのやつ、逃げた……。
第81話の5へ続く






