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第81話の3『手負い』

 「お運びします。よろしいですか?」

 「あ……すみませんですぞ」


 リリーさんを置いてはいけないので、なんとか背中に乗せておぶって歩く。リリーさんは見た目の割には重さはなくて、俺としては子犬を運んでいるくらいの感覚であった。ただ、いざ神殿の入り口付近から降り始めると、階段が200段以上もある事実に気がついて足が震えた。


 この状況から察するところ、ルルルがリリーさんの代わりに鳥かごへ入り誘拐されたと仮定しても、どちらにせよ今の俺にキシンを追う手段はない。グロウやジャジャーンさんが助けてくれる可能性はあるが、キシンはカリスやソマンスといった他の魔物に比べて、それなりに曲者と見える。遠くの空に誰かの姿が見えないかと視線をのばしつつ、何も見えぬまま俺は階段を降り終えて溜息をついた。


 「勇者様……でございましたか?」

 「えっと……はい」


 リリーさんが俺の背中から降りて、自分で歩く気持ちを見せる。ただ、体の至る所に痛みがあるのか、あまり節々を自由に動かせる様子ではない。彼女は木の陰に手をついて、俺に先に行くよう告げた。


 「ルールルルが、リリーをかばってさらわれてしまったのですぞ。お願い……助けてほしいですぞ」

 「ルルルは俺の仲間が追ってくれてますから。彼は見た目は怪しいですが……頼りになるので」


 きっと、身動きのとりにくい自分をここに置いて、早くルルルを助けに行ってほしいという旨の頼みなのだろうが……すでに俺にはルルルを追う方法も、行方を探す手段もない。けど、そう言ってしまうとリリーさんの心配を増やすだけなので、なるべく希望を含んだ言い回して誤魔化してしまう。


 「それに、まだ近くに魔物がいないとも限りませんし……」


 そう言って、俺は森の草木や地面を見回す。随所に人の形をした黒い染みのようなものが散見され、それらはジャジャーンさんにやられて消滅した魔物のものと思われる。それ以外にも、獣を象った石像が不自然に配置されており、やはり魔物を感知して動く罠の一種と判断された。以前、霊界神様や精霊様をさらった際には、ここや神殿内での仕掛けに痛手を受けて、リリーさんを見つけられずに撤退したと考えられる。

 

 「……う~ん」


 さあ、どうしたものか。グロウは空を飛べるから、戻ってきたとして俺たちを探すのに時間はかからないだろう。ジャジャーンさんの暴れる音も聞こえない。すでに魔物たちが結界の外に出ており、姿をくらましてしまったのかもしれない。


 「……あああ!やつら!いまいましい!」


 ずずずずず……という音を立てて、木々の隙間からジャジャーンさんが顔を出した。魔物を追いかけていった時よりも傷が増えていて、魔物からの反撃を受けたと見られる。怒りと痛みを露骨に動きに表しながらも、ジャジャーンさんはリリーさんを見つけると声を大きくした。


 「おお!勇者よ!精霊様をお守りくださったか!」

 「あ……ええと。リリーさんは助かったんですが」

 「……?」

 「霊獣ジャジャーンさん!ルールルルが代わりにさわられてしまったのですぞ!」

 「なんですって!魔物めぇ!いまいましいぃ!」


 リリーさんの報告を受けて、更にジャジャーンさんは怒り狂っている。しかし、体のキズに加えて心労もたたってか、ぐったりと体を伏せてしまった。


 「ぐううう……」

 「……大丈夫ですか?どこか痛みますか?」

 「多少の事である。ヒジに矢を受けてしまったのよ」

 「ヒジ?」


 矢を抜いてあげようと思ったのだが、ジャジャーンさんの言うヒジが見当たらずに困惑した。そこへ、グロウもイライラとした態度を露わとして戻ってきた。


 「野郎ッ!小賢しい手で姿をくらましやがって!」

 「グロウ……あの魔物は見失ったのか?」

 「あぁ!くっ……イテェ!」


 ルルルをさらった敵については、グロウも姿を見失ったらしい。こちらも、どこかケガをしているのか。俺に出来ることは大してないのだが、聞くだけの事は聞いてみる。


 「どこかケガしたのか?」

 「あぁ。手羽先をな。少し切られたまでよ」

 

 手羽先。


                                 第81話の4へ続く

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