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第26話『修行(修行かなぁ…?)』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公だったはずだったのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。今は空を見上げている。

 

 俺がレジスタの街の下降スイッチを作動させた為、街全体が徐々に地上へと近づいているらしく、五臓六腑が持ち上げられているような軽い重力に襲われている。すぐにでもゼロさんと博士を追いたい気持ちでパンパンなのだが、どうやって街から出ればいいのか解らないから、ひとまず街のテッペンにある公園でヤチャと一緒に待機中である。


 「……テルヤァ。下だぁ!」


 隣で腕を組んだまま笑っていたヤチャが何かに気づき、街の中央にある吹き抜けから街の下層を指した。俺も指の向いている先を見つめようと身を乗り出すが、改めて見たら高過ぎてビビってしまい面目ない。


 「すまん……ヤチャ。何が見えてる?」

 「人だぁ!」


 誰か、人がいたらしい。手すりの隙間から目をのぞかせると、確かに下の方で人らしき一団が確認できる。住民の人たちにしては動きの統制が取れているし、警備隊員が街の安全を確認しに来たと考えられる。


 ふと、俺たちが最初に街へ突入……訪れた時、侵入者と判断されて攻撃を受けたのを思い出した。またしても殺されかけるのではないかとビクビクしながら下まで会いに行くが、事前に博士が俺の居場所を報告してくれたらしく、物騒な事態にはならずに俺たちは保護された。


 「テルヤさん。ご無事でなによりです。僕はカルマ・ギルティ。忘れてもらっては困りますよ」


 俺たちが大樹を出てから1時間ほどであるからして、まだミオさんは隊に合流していないようだ。しかし、足の速いカルマ隊員の姿は当然のようにあり、自己主張も強めに顔見知りっぽく声をかけてくれた。


 「いや、カルマ隊員のことは、きっと最後まで忘れません……」

 「あ、そうだ!カルマ隊員。二人を街の外まで、ご案内さし上げて。お願いします!」

 「しかし、僕には街の様子を偵察し、本隊へ報告する使命が……」

 「お願いします!君にしかできない!」


 他の隊員たっての願いが通じ、カルマ隊員は前線から離脱となった。街の非常避難口は民家の裏に隠れているマンホール蓋の下にあり、通路の高さが180cmほどしかないせいでヤチャは中腰のまま歩かねばならなかった。


 「カルマ隊員。任務中なのに、すみませんね」


 「いえ、僕にしかできない仕事ですものね。いや、それにしても……近頃は僕にしかできない仕事が多すぎて、まいってしまいますよ。頼られる男は辛い」


 失礼ながら、実質的な厄介払いなのではないかと勘ぐりつつも、なにかと彼にも助けてはもらっている……気はするから本音は言えない。通路の先は街の外壁に開いた出入口へと繋がっており、簡易的な綱ばしごが海まで降ろされている。はしごの下に船があって、それを使って岸辺まで渡れると思われるが、あまりに高所が極まったせいで俺は恐怖のあまり気絶した。


 「……さん!テルヤさん!」


 なんだろう。遠くから声が聞こえる。


 「こうなったら、殴るしかない!ええい!」

 「いってぇ!」


 突然、何か拳のようなものが俺の鼻っ柱に当たりつけてきた。大して力が強くなかったから死にはしなかったが、残念ながら鼻血は出ているんじゃないかな。


 「ダメだ!僕、カルマ・ギルティの力ではダメだ!ヤチャさん!お願いします!」

 「俺様の出番……だあああぁぁぁ!」

 「ま……待て!俺は既に鼻血、出血している!」


 どうやら気絶した俺を起こそうという努力が余って、カルマ隊員が俺を殴りつけたようである。さすがにヤチャの一発をくらうと即死確定なので、それだけは阻止しようと命乞いをした。


 「……ここは?」

 「研究所です。ええ。テルヤさんを運ぶため、僕も尽力いたしました」


 知らぬ間に俺はベッドの上にいて、カルマ隊員いわく研究所の一室であるらしい。情けない話、俺が恐怖に負けて意識不明になったから、ここまで搬送された次第となる。じゃあ、ここにゼロさんも来ているはずだ。そうとなっては、鼻血を出している場合ではない。


 「カルマさん!ゼロさん見なかったですか?」

 「テルヤさん!ゼロさんを探している場合ではないですよ!なぜか、鼻血が!」


 カルマ隊員がティッシュをくれたが、鼻血の責任をとる心意気は彼には無いと見た。とりあえず鼻にティッシュを突っ込み、立ち上がってドアを目指す。すると、俺がドアを開くより先にドアが開き、やつれた様子の博士が顔を出した。


 「……ああ、テルヤ君。無事に着いたようでなにより……しかし、どうして鼻血を?」


 「カルマ隊員に殴られましたが、それはともかくゼロさんの容体は……」


 「ああ、安心しなさい。ゼロは生きている。だがね。体の負傷が大きく、部位を交換する必要があったよ」


 そうだ。キメラのツーからゼロさんを救出した時、彼女の腕は腐食したように崩れていた。もともと、ゼロさんの体は様々な死体のパーツを繋ぎ合わせて作られたと聞いたが、取り換えるにあたって……あれ、今になって気づいたけど、俺は気絶した時にキメラのツーを持っていたはず!それ、どこ行った!?


 「カルマさん。俺、なにか持ってなかったですか?」


 「パニックのあまりテルヤさんを殴りつけてしまった。そんな僕に対する憎悪、などでしょうか?」


 「そんな抽象的なものじゃないです……」


 「……ああ。キメラのツーならば、テルヤ君と共に運び込まれた。勇者の君が街へ来たことで、魔物としての本能が呼び起こされ暴れ出したとの見解だ」


 そうだったのか。戦っている最中も、キメラのツーは勇者への敵意をうわ言のように発していたな。その話から繋げる形で、博士はゼロさんの話題へと戻す。


 「ツーの体で、魔物の体らしき部位が使われているのは胴体だ。そこに記憶や思考が位置しているとすれば、手術後のゼロも精神面で大きな変化はないだろう。ただし、腕が交換となる為、今までのように魔法は使えないかもしれない。君は、これから……どうするかね?」


 「……俺は」


 その質問の意図をくみ取る。つまり、今後は戦力外となる可能性もあるが、それでも共に旅をするつもりがあるか……という事だろう。もちろん、戦えない人を巻き込むのは気が引けるけど、それを別にしても助けてもらった感謝の一つは伝えねば、ここを離れる覚悟が決まらない。


 「仲間として戦えないとしても、ゼロさんは大切な人ですから。せめて、命を助けてもらった感謝と、魔王を倒したら迎えに来ることは伝えておきたくて」


 「……解った。治療を終えたら面会の機会を作る。5日ほど、レジスタの街で待っていてほしい。警備隊に言えば、宿か空き家を用意してくれるだろう。では、失礼」


 博士にとってもゼロさんは娘みたいなもので、知り合って数日の俺よりも何倍も心配だったはずだ。その博士が大丈夫だというのなら、ゼロさんの命についても別状はないのだろう。今はゼロさんに会わせてもくれなさそうだし、博士の言う通り街での待機を決めた。


 「……カルマ隊員。どこか泊まるところがあれば、教えてもらえませんか?」

 「あ、それは地区整備班の管轄なので、僕には聞かないでください」

 「……」


 仕事したりしなかったりするカルマ隊員には頼れなかった為、のちに帰還したミオ隊員の案内で俺たちはレジスタの街へと戻った。なお、レジスタの街が海辺の岸壁に寄ってくれたおかげで、ハシゴを使って中へ戻るのは降りる時より気持ち楽だった。


 「街の8層目に空き家があるんすよ。それとも、ホテルの方がいいっすか?警備隊で話をつけるんで、お金は気にしないでもらっていいっす」


 「ありがとうございます。では、ホテルがいいかな……」


 ミオさんについては出会ってから世話になりっぱなしで、あえてカルマ隊員と比較しなくても非常に優秀な人だと解る。ただ、こういう人が仲間にいると何かと頼りすぎてしまうから、きっと旅仲間にはなってくれない予感はある。


 「ここがホテルっす。ちょっと話を通してくるんで、待っててもらっていいっすか?」

 「はい」


 ホテルは街の岩壁に埋め込まれるようにして立っており、ピンクと水色の炎がドアや壁をピカピカと照らしている。街全体が薄暗いせいで妙に目立つ……というか、いかがわしい場所にすら見える。


 「そうだ。俺がゼロさんを待つって言ったからなんだけど……皆さん、しばらくは自由行動で頼みます。ヤチャ、どうする?」


 「俺様は……修行だぁ!」


 「ファシャシャ!ショウイチショウイチ!」


 街での一時、ヤチャは何かしら修行に励むらしい。仙人は解らん。俺もランニングなどしながら、街を見て回ろうか。などと、そんな悠長なことを考えていると、大樹に忘れ物として置いていかれていた精霊様が、なんだか突拍子もないことを言い出した。


 「……そうじゃ。あたちが前に真実の泉に質問した時、勇者と二人で住むよう言われたんよ」

 「……ええ?なんって言いました?」


 すっかり余暇をいただいた気持ちだったので、ちゃんと聞こえてはいたが、つい聞き返してしまった。それと同時に、聞き間違いであることを願ってすらいる。


 「あたちが『何かやることない?』って聞いたら、勇者と二人で一つの家に住むよう言われたんよ」


 「……お……おとこわりします」


 ゼロさんが離脱した今この時になって、急に精霊様と二人きり。これでヒロイン交代やロ〇コンなどと言われては不本意である。それよりなにより、精霊様の面倒を見なくてはいけないというのが考えただけでも面倒である。お断りしたい……。


 「すみませんが、また暇な時でもいいですか?」

 (前々から思っていたのだが、勇者は精霊が嫌いなのか?)

 「ええ?」


 仙人がテレパシーで随分と突っ込んできたからして、しどろもどろながら俺も否定せざるを得ない。


 「そ……そそ……そんなわけないじゃないですか。精霊様は大切な仲間?みたいな感じ?です。ええ。ええ」


 「でも、何も言わずに、あたちを置いていったじゃろ!木の中に!」


 「すみません。あのミサイルは3人乗りだったんですよ」


 「それ、一人ハブる時に使う常套句なんよ!」


 「何をケンカしてるんすか……もう入っていいっすよ」


 ホテル側との話がついたようで、ドアを開けてミオさんが手招きしている。ただ、俺たちの口論が中まで聞こえていたのか、どうにも呆れた様子である。


 「テルヤァ!」

 「おっ……どうした。ヤチャ」

 「修行は大事だあぁ!俺様も走り込みだあぁ!」


 ヤチャの修行が走り込みで、俺の修行が女児の世話なのは変だろ……。そう思っている矢先、ミオさんにも苦言を呈された。


 「まあ……傍目に見て、勇者様の精霊様に対する態度は妙に、よそよそしいっすから。ちょっと歩みよった方が良いんじゃないっすか?」


 「ミオちゃん……」


 精霊様、ミオちゃんって呼んでんの?まあ、確かに俺はゼロさんのことばかり気にしていて、他の人たちとの関わりが希薄だったかもしれない。ここまで言われては断るに断れないし、俺も仕方なく諦めをつけた。


 「……解りましたよ。空き家があるとのことですが、そちらをお借りできますか?」


 「じゃあ、ヤチャさんと仙人さんはホテルで、勇者様と精霊様が空き家でよろしいっすね。ご案内するっす」


 ヤチャと仙人が二人でホテルへと入っていき、俺たち二人はミオさんの後ろをついて別の場所へと向かう。解りにくい路地の一角に他の建物とは一線を画す和風な平屋があり、ガラガラと引き戸を開きつつミオさんが中へ入っていく。空き家の割には綺麗に掃除されているな、と思いつつ中を見回していると、その理由をミオさんが教えてくれた。


 「博士の仲間の人たちが使ってるらしいっすけど、また出かけて行ったみたいなんで今は空き家っす」


 「なるほど」


 恐らくはワンさんやスリーさんたちのことだろう。ツーさんの一件のあと、あの人たちとは会っていないが、人知れず街の為に動いてくれているようだ。これにて俺たちの案内も終わりとなり、ミオさんは空き家に俺たちを残して外へと出る。


 「ミオちゃん……何かあったら来てほしいんよ」

 「解ったっす。街の下層に本部があるんで、用事があれば呼んでほしいっす」

 「ミオさん。何かあったら来てください……」

 「勇者様は何が心配なんすか……」


 心の支えであったミオさんが帰ってしまい、本格的に精霊様と二人だけになってしまった。さあ、出かけよう。どこかへ。


 「勇者。どこ行くんよ?」

 「ぎくっ……あ……晩ご飯の買い出しですよ。多分」

 「あたち、お肉が食べたいんよ」

 「……一緒に行きます?」

 「お菓子、買ってくれるん?」

 「買いません」

 「じゃあ、行かない」


 などという浮遊感のある会話をはさみつつも、俺は精霊様を家に置いて街へと逃げ出した。

既に商店通りは静かな賑わいを見せていて、街の人たちは何事もなかったかのように商売を始めている。金銭の単位が解らない為、手持ちのお金が多いのか少ないのか解らないが、試しに謎な肉の購入を決意する。


 「これ、このお金で買えます?」

 「あっ!あんた、勇者だろ!おいっ!勇者いたぞ!」


 勇者が来ているという噂は既に広まっているらしく、店主が俺を指さして周りに呼び掛けている。したら、一般市民やら他の店の人やらが一斉に集まってきて、俺をなぶりごろすが勢いで囲み込んだ。


 「君が勇者か!ありがとう!街を救ってくれて!」

 「これ、美味しいから持っていってね!」

 「弱そう!」

 「いつまで、街にいるんだい?ゆっくりしていってくれよ!」

 「案外、弱そう!」

 「うちも見てってくださいな!」

 「弱っちそう!」


 小突かれたり引っ張られたりしつつ、なんとか人込みから脱出した頃には腕が手土産でいっぱいになっていて、それこそは、ありがたい。そして、小まめに差し込まれる『弱そう』という感想には俺も同意である。戒めとしよう……。


 人目につかない場所にあるベンチへ腰を下ろし、いただいた物品を確認する。野菜……らしきもの。肉……らしきもの。飲料……らしきものがズラリであるが、その正体は揃って不明である。しかし、その中に俺は見覚えのある緑色の野菜を見つけた。


 形はマルッとしたピーマンで、袋にもピーマン『中身なし』と書かれている。そもそも、ピーマンに具があった試しはないが、この世界には中身の詰まったピーマンが存在しているかもしれないから突っ込まないでおこう。


 おお、普通そうな肉もある。豚コマのような見た目は食欲をそそるが、ちょっとだけ切り残されている表皮が青色なのは玉に瑕である。商品名も『青ざめ豚』と書かれていて、なんだか不健康そうな豚さんだが、もしかすると正式には青鮫豚かもしれないから深くは突っ込まない。


 とにかく、ピーマンと豚が揃った。これは、あれを作るしかない。そう決めて意気揚々と帰宅し、慣れた手つきで調理を始めた俺。しかし、その料理が子どもの好き嫌いに触り、不満を買う要因となるとは思いもよらなんだ。


 「勇者!どうして、あたちの皿に野菜を入れたんよ!」

 「肉が食べたいって言ったじゃないですか……」

 「ピーマンに肉を入れる発想はなかったんよ!天才か!」


 そう。この子どもはピーマンが苦手だっだのだ。結局、元の商品名の通り中身だけがなくなった残されピーマンは俺が食べることとなり、精霊様の気を紛らわそうとジュースらしきものをあげたところ、それが激苦コーヒーだったせいで更に渋い顔をされる。


 「疲れたから、もう寝る!」

 「お……おやすみなさい……」


 ここまでくると、歯をみがくよう言った方がいいのかとも思ったが、それは言わずとも自分から磨きに行った。隣の部屋にベッドがあり、それとは別に寝室が一つあるから、一人ずつ部屋があって俺としては助かる。


 それにしても、まったくバトルの要素がないのに俺も疲れた。戦闘の時とは別の緊張が体にのしかかっている。この生活に何の意味があるのか全く解らないが、修行といわれれば修行にも思えるくらい辛い。


 まあ……精霊様も寝たことだし、ここからは羽を伸ばそう。俺は棚にあった本の中から適当に一冊を取り、流し読むようにしてページをめくった。本を3分の1ほど読み終え、青ざめ豚が青い豚であることを知った頃、隣室へ続く戸が小さく開いた。


 「……勇者。怒ってるのん?」

 「え?いえ、怒ってないですが……」

 「じゃあ、いいんじゃが……」


 トイレにでも行くのかと思ったが、それだけ言うと精霊様は黙って俺の方を見つめていた。ちゃっかり、いつもの口調に戻しつつ、精霊様が本題を切り出す。


 「決して暗くて寝られない訳ではないが、その……一緒に寝てもいいんよ!」


 ……ああ、そうか。どうにも強情そうには見えるが、精霊様も素直になれない性格なんだな。そう思うと、俺も自然と微笑み返す事ができた。


 「……精霊様」

 「勇者……ううう……頼む。一緒に寝て」

 「……お断りします」


第27話に続く

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