第79話の4『精霊神殿』
「俺達で見てきますよ」
「面目ない……役目を預けようぞ」
神殿へ入れずに詰まっているジャジャーンさんには道を開けてもらい、俺たちは精霊神殿の中へと足を進めた。奥へ進むにつれて湿度が上がっていくように感じるが、肌をさわってみても湿り気などはない。神殿の中は魔力の密度が高いから、それが少なからず体に影響しているのかもしれない。
「ルルル。中は結構、広いのか?」
「それなり」
『それなり』などと言われたそばから、通路を曲がった先には野球スタジアムほどもあるガランとした原っぱが広がっていた。その中央には塔と見間違えるくらい大きい剣みたいなものが突き刺さっていて、でも刀身には輝きもなく灰色にくすんでいる。空は見えないが、その代わりに天井には水色の空や白い雲が描かれていた。
「なんか、感じわりぃよなぁ。ここ」
「そうか?」
「ああ……体が金色じゃなけりゃ、あんま力が出ねぇかもしれねぇな」
人間の姿へと戻ったグロウが、腕をさすりながら周囲を見回している。まあ、聖域って雰囲気の場所だし、魔王軍の手先だったグロウが苦手に思うのも解らないでもない。かといって、勇者の俺が元気になる訳でもなく、どうもプラスには働いていないと感じられる。
神殿には中央の原っぱの他に、至る所に下り階段が見える。結構、建物は複雑な作りになっていて、どこへ行けば霊界神様に会えるのか見当もつかない。そうして俺が腕を組んで考えていると、勝手にルルルが何処かへ向かって走り出した。
「お……おい。どこ行くの?」
「……」
階段を降りていくルルルの後を追い、その姿を見失わないように神殿の中を進んでいく。室内にいるはずなのだが、壁全体が薄ぼんやりと光っていて、どこの部屋に入っても暗さはない。地下は迷路のように入り組んでいて、部屋や階段の配置にも規則性がない。もしルルルとはぐれてしまったら、マップを確認しながら上に出ようと思う。
それにしても、昔に作られたであろう建物とはいえ、あちらこちらがイヤにボロボロである。ストーリー仕立てに見える壁画などもあるにはあるが、引っ掻き傷や斬りつけられたあとがついていて無残である。何か解らないが、人の姿に似ているシミなども床についていて、1人で入っていたとしたらホラーものと勘違いしそうな雰囲気であった。
「霊界神様ッ!」
セーブポイントを思わせるキラキラした水晶が置かれている場所を抜け、俺たちは大きな噴水のある場所へと出る。噴水は壁から流れ出る水を中央へと集めて、それを大きく噴き上げていた。その中へとルルルが呼び掛けているものの、特に返事はなさそうである。
「留守なのかな?」
「や……霊界神様は、神殿と精霊の守護を担ってるん。外へは出かけないんよ」
留守だとしたら、それはそれで問題らしい。そういや、神殿に入ってからというもの、精霊らしき姿も見てはいないな。神様もろとも精霊様たちも連れ去られた線は濃厚だが、まずは物事を良い方向に考えてみよう。俺は霊界神様および、精霊様が隠れていないか探してみることを提案した。
「とりあえず、この辺りを探してみるか」
「う……うん」
「探し物かよ。面倒くせぇ」
そう言って、グロウが近くにあった宝箱へと腰を落とす。すると、その衝撃を受けて箱の中から悲鳴が聞こえた。
「ひゃんっ……!」
「……あぁ?誰かいんのか?」
「……何も入っておりませんぞ!何もはいっておりませんぞ!」
「そうかよ。なら、いいぜ」
その数回のやりとりのみで、箱の中身とグロウの会話は終わった。すごい。これか天然同士の会話か……。
第79話の5へ続く






