第79話の3『入り口』
「今さっき、四天王のシモベを名乗る敵がいて、そいついわく捕まえ損ねた精霊を探してる感じだったんです」
「なんですって……じゃあ、我ら霊獣が敵を交戦していた隙に、敵は精霊神殿へ……急ぐぞよ!」
カリスの言動から知り得た情報について、俺は簡潔にジャジャーンさんへと伝える。こうして悠長にしてはいられないと知り、ジャジャーンさんはのたうち回るような動きで勢いよく走り出した。もちろん、俺たちもジャジャーンさんを追いかけるが……さすがに速すぎる。追いつけない。
「お兄ちゃん!ジェットドライブ走法は!?」
「誰に聞いたかは知らないが、そんな技を会得した憶えはない」
以前、ちょっとだけ話題に出た謎の走法をルルルにせがまれるが、俺だって詳しく知らない技なので期待されても応えられない。そうして、とろとろと走っている俺たちを見かねてか、グロウはカラスの姿になり大きな翼で俺たちをすくい上げた。
「しゃらくせぇ。背中に乗ってけ」
「恩に着る……助けてもらってばかりで悪いな。何か欲しいものとかある?」
「あぁ、いつか、てめぇの命をもらうぜ」
「それは困るなぁ……」
飯でもご馳走する気持ちで欲しいものをグロウに聞いたら、かけがえのないものを求められたので言葉に詰まった。それはそれとして、グロウの飛ぶ速さならばジャジャーンさんの巨体が動くスピードにも引けをとらず、この調子なら迅速に神殿へ行ける……はずなのだが。
「……なんか、どんどん下がってないか?」
「いや、下降してるつもりはねぇぞ」
木々の上を飛んでいたはずのグロウが、今は枝の下をくぐるようにして進んでいる。高度が下がったのかとも思ったが、俺たちの前にいるジャジャーンさんの姿も今は木より小さく見える。
考えられる可能性としては俺たちが縮んでいるのか、木が大きくなっているのかのどちらかである。周囲の景色から答えを導きだそうとしていると、その正解をルルルが教えてくれた。
「精霊神殿の入り口は小さくできてて、近づいた者も体が小さくなるんよ」
「なんのために?」
「見つかりにくくするためだと思うのじゃが……よく解らないんよ」
なるほど。入る時に小さくならないといけないくらいの狭い入り口にして、遠くからは発見しにくいように作られているんだな。それに、神殿へ近づくのにも敵の想定した以上に時間がかかるから、その間に霊獣さんたちの警備で敵を弾くこともできるかもしれない。しかし、どうやって体を小さくしているのかという技術的な謎が、俺の中では今のところ最難題である。
「おっ……あぶねぇ」
突然、木の陰から石柱が現れ、グロウがスピードをゆるめつつ回避する。景色として森の姿は自然のままに保ちながらも、石でできた人工建造物や通路らしきものが地面に見えてくる。柱のテッペンに置かれている石像が、監視するように俺たちの方を見ている。もしかすると、金ぴかの姿じゃなかったら、それも動いて襲い掛かってきていたのかも、などと予想してみた。
「もうすぐじゃ」
木の根やツルが絡みついている階段が見えてきて、それを目印にしてルルルは神殿が近いことを教えてくれた。グロウが階段にそって上へと飛んでいく。この先に神殿の入り口があるのだろう。俺は神殿の姿をおがもうと顔を上げた。
「……」
「……」
階段の上には精密な細工を施された石造りの建物があり、その中央にはドアのない入り口が大きく開いている。なのだが……そこに頭だけを突っ込み、ふさぐ形でジャジャーンさんが詰まっていた。
「あの……なにしてるんですか?」
「わずかにでも、中が見えないかと……」
「見えました?」
「見えない」
う~ん……。
第79話の4へ続く






